俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい
「六番テーブルの客、不満そうにしてたぞ。オーダーしてから十五分経ってんじゃねーのか。そこ優先で」


それって、先ほどの女性客ふたりのこと? ここで働いていたときのことを覚えているからなのか、伝票を見たからなのかわからないけれど、テーブルの番号まですぐに把握するのはすごい。

オーダーから十五分を過ぎるとお客様は待たされたと感じるらしいが、きっとその通りなのだろう。スタッフは「すみません!」と謝ってすぐに取りかかり始めた。


「グラタンは天板に流して焼いて。あとで盛り付けるようにすれば、ココットに入れて焼くより多くできる」

「わかりました」


手際よく盛りつけながらアドバイスする彼に従い、皆が再び慌ただしく動き出す。しかし先ほどとは違い、幾分か落ち着きを取り戻したように見えた。

できあがった料理が次第にスムーズに出されていく中、臨機応変に調理を手伝う不破さんは、野菜が足りないことに気づいたのかキャベツを切り始める。

気持ちのいい音を立て、すごいスピードで千切りにしていくその包丁さばきに、一瞬皆が目を見張った。もちろん、私も。
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