還魂―本当に伝えたかったこと―
act:運命の出逢い
俺がサークルでお世話になっている加藤先輩に彼女を紹介することになったのは、内心嫌々だった。
だって恋する彼女の傍いたくて、偶然を装おって一緒にいたときだったから。
彼女と出会ったのは大学入試のとき。
持ってきていたはずの消しゴムが見当たらなくて、慌てふためいてカバンや筆入れの中を探していた俺を見て、隣にいた彼女が自分の消しゴムを半分に割って貸してくれた。
そのまま無視すれば、ライバルがひとりが減ったかもしれないというのに――そんな彼女の無償の優しさが、俺の心にじわりと印象的に残ったんだ。
試験が終わってから隣の彼女に、名前と受験番号を聞いてその日は別れた。
合格発表の日、大勢の人込みでもみくちゃになりながら、自分の番号と彼女の番号を確認した。お互いの番号を見つけて一緒に合格できたことに、ひとりで心底喜んだ。
そして入学式の当日、たくさんの学生の中をかき分けるように彼女を捜しまくった。
必死になって捜していると、大勢の中からすぐ見つける事に成功した。他のコに比べると一回り小さい彼女だから、見つけやすくて当然なんだけど。
「廣田さんっ!」
急いで彼女の元にに駆け寄った。くるりと振り返って、とても嬉しそうな顔をしている。その笑顔を見て、急速に心拍が上がった。すっげぇ可愛すぎるだろ。
「水留くんも、やっぱり合格したんだね」
「本当にあのときは、お世話になりました」
「消しゴムがなくても、合格してたんじゃないの?」
「そんなことないよ。ホントに助かったんだって」
まるで昔からの知り合いみたいに、すっげぇ会話が弾む。気付いたらお互い、名字の呼び捨てで呼び合うようになっていた。
そう――俺は出会ったときから廣田を意識していたのに、アイツときたらまったく俺のことは眼中なしって感じだった。良くて友達以上、恋人未満の関係と言える。
いい雰囲気に持っていってもナチュラルにはぐらかされて、それ以上の進展がないまま1年以上が経過していた。
(無駄に足掻くだけ、ダメなんだろうか?)
悶々と悩んでいるところに、俺が心底憧れているバイクのサークルでお世話になっている加藤先輩が、いきなり現れたのである。
「よぉ洸(アキラ)、彼女なんか連れて、どこに行くんだ?」
たまたま廣田と課題を一緒にやるのに、カフェテリアに行こうとしていたときだった。
廣田が眉間にシワを寄せて、ぎろりと俺を睨む。彼女じゃないしという自分なりのアピールなのが、すぐに分かった。
「加藤先輩、彼女は友達の廣田さん。加藤先輩はバイク乗りのサークルの先輩なんだ」
お互いの説明を俺がしながら、ふたりの様子を伺った。廣田が何となく、ポーっとしているように見える。
分かるよ、加藤先輩は無条件に格好良い。それに比べたら俺は、どうせお子ちゃまだよ。
「洸、今晩やる定例会はいつもの場所でやるから、出席よろしくな。もし良かったら、廣田さんもどう?」
「定例会って?」
「定例会ってゆ~飲み会だよ。次のツーリングの場所を決めるのに」
俺が廣田に渋々説明する。きっとふたりが繋がってしまったら、必然的に仲良くなるような気がしてならなかった。
「私バイクに乗れませんが、出席して大丈夫なんですか?」
小首を傾げながら加藤先輩に聞いている廣田を見て、すっごく複雑な心境に陥る。俺にはそんな、可愛らしい仕草をしたことがない。
「女のコのメンバーは他にもいるんだけど、バイトが入ってるとかでメンツ足りなくて、盛り上がりにかけるんだよ。ほら、洸も頼めって!」
(正直、出てほしくない……。さっきから廣田のヤツ、加藤先輩を意識しまくっているじゃないか)
「バイク乗りに悪いヤツいないから、きっと大丈夫だよ」
ポツリと呟く、渋々な状態の俺の心。それを隠しながら頼み事をするのって、意外と大変だ。
だって恋する彼女の傍いたくて、偶然を装おって一緒にいたときだったから。
彼女と出会ったのは大学入試のとき。
持ってきていたはずの消しゴムが見当たらなくて、慌てふためいてカバンや筆入れの中を探していた俺を見て、隣にいた彼女が自分の消しゴムを半分に割って貸してくれた。
そのまま無視すれば、ライバルがひとりが減ったかもしれないというのに――そんな彼女の無償の優しさが、俺の心にじわりと印象的に残ったんだ。
試験が終わってから隣の彼女に、名前と受験番号を聞いてその日は別れた。
合格発表の日、大勢の人込みでもみくちゃになりながら、自分の番号と彼女の番号を確認した。お互いの番号を見つけて一緒に合格できたことに、ひとりで心底喜んだ。
そして入学式の当日、たくさんの学生の中をかき分けるように彼女を捜しまくった。
必死になって捜していると、大勢の中からすぐ見つける事に成功した。他のコに比べると一回り小さい彼女だから、見つけやすくて当然なんだけど。
「廣田さんっ!」
急いで彼女の元にに駆け寄った。くるりと振り返って、とても嬉しそうな顔をしている。その笑顔を見て、急速に心拍が上がった。すっげぇ可愛すぎるだろ。
「水留くんも、やっぱり合格したんだね」
「本当にあのときは、お世話になりました」
「消しゴムがなくても、合格してたんじゃないの?」
「そんなことないよ。ホントに助かったんだって」
まるで昔からの知り合いみたいに、すっげぇ会話が弾む。気付いたらお互い、名字の呼び捨てで呼び合うようになっていた。
そう――俺は出会ったときから廣田を意識していたのに、アイツときたらまったく俺のことは眼中なしって感じだった。良くて友達以上、恋人未満の関係と言える。
いい雰囲気に持っていってもナチュラルにはぐらかされて、それ以上の進展がないまま1年以上が経過していた。
(無駄に足掻くだけ、ダメなんだろうか?)
悶々と悩んでいるところに、俺が心底憧れているバイクのサークルでお世話になっている加藤先輩が、いきなり現れたのである。
「よぉ洸(アキラ)、彼女なんか連れて、どこに行くんだ?」
たまたま廣田と課題を一緒にやるのに、カフェテリアに行こうとしていたときだった。
廣田が眉間にシワを寄せて、ぎろりと俺を睨む。彼女じゃないしという自分なりのアピールなのが、すぐに分かった。
「加藤先輩、彼女は友達の廣田さん。加藤先輩はバイク乗りのサークルの先輩なんだ」
お互いの説明を俺がしながら、ふたりの様子を伺った。廣田が何となく、ポーっとしているように見える。
分かるよ、加藤先輩は無条件に格好良い。それに比べたら俺は、どうせお子ちゃまだよ。
「洸、今晩やる定例会はいつもの場所でやるから、出席よろしくな。もし良かったら、廣田さんもどう?」
「定例会って?」
「定例会ってゆ~飲み会だよ。次のツーリングの場所を決めるのに」
俺が廣田に渋々説明する。きっとふたりが繋がってしまったら、必然的に仲良くなるような気がしてならなかった。
「私バイクに乗れませんが、出席して大丈夫なんですか?」
小首を傾げながら加藤先輩に聞いている廣田を見て、すっごく複雑な心境に陥る。俺にはそんな、可愛らしい仕草をしたことがない。
「女のコのメンバーは他にもいるんだけど、バイトが入ってるとかでメンツ足りなくて、盛り上がりにかけるんだよ。ほら、洸も頼めって!」
(正直、出てほしくない……。さっきから廣田のヤツ、加藤先輩を意識しまくっているじゃないか)
「バイク乗りに悪いヤツいないから、きっと大丈夫だよ」
ポツリと呟く、渋々な状態の俺の心。それを隠しながら頼み事をするのって、意外と大変だ。
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