還魂―本当に伝えたかったこと―
***

 結局その夜、洸の家に泊まった。

 夜が更けた頃、寝返りしかけて不意に目が覚めてしまった。隣で寝ている洸の顔を見る。あどけない寝顔をしている洸の肩に、そっと布団をかけてあげた。

 私の腰に回された腕をよけて起き上がり、ふーっと溜め息をつく。

 どうやって死神を説得するかを考えてみた。見るからに頑固そうだし、人の話を最初から聞く気がないのをイヤというほどに感じた。

 話し合いが無理なら、この手を使ってバイクから引き剥がすことはできないかな? でもそんなことをしたら、大鎌で攻撃されるかもしれない。

 いろいろ考えても埒が明かないので、静かに横になった。引き寄せられるように、裸の洸の胸に頬をくっ付ける。呼吸音と一緒に、規則正しい鼓動が耳に聞こえてきた。同時に、温もりを感じて、ゆっくり目を閉じる。

 あたたかい体を肌で感じつつ、瞼の裏で思い出してしまった。

 玲さんの遺体と対面した瞬間に、思わずしがみついたっけ。しがみついて揺さぶりながら、何度も何度も名前を呼んだのに反応がなくて、絶望が胸の中を支配した。

 とても冷たかった玲さんの体――洸があの状態になってしまうと考えただけで、胸が張り裂けんばかりにキリキリと痛む。

 眉根を寄せながら、ぎゅっと洸を抱き締めた。

「洸……」

「ん? どうした、怖い夢でも見たのか?」

 私の体に腕を回して、抱き締め返してくれる。

「ううん、大丈夫。ごめんね、起こしちゃって」

 そう言うと眠そうに目を細めながら、私の顔をじっと見つめてきた。

「何だか……夢見てるみたい、だ」

「夢?」

「ん……。目が覚めたらすぐ傍に……お前がいるのがさ。こんな関係に……なれるなんて思ってなかったから」

「夢じゃないよ」

 私が笑うとオデコに、唇を押し付けキスをした。

「そ……だな、ずっとそうやって、笑ってい……てくれ。それだけで、俺は……」

 うつらうつらしながら、洸は喋りながら寝てしまった。幸せそうに、微笑みを浮かべながら。

 私が大好きなこの笑顔を守りたい。たとえあとから泣かせることになっても――。

 強く思いながら洸に寄り添うようにして、この日は眠りについた。
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