還魂―本当に伝えたかったこと―
***

 洸から連絡は、10日間なかった。メールも電話も一切なし。

「どうしよう……」

 オロオロしながら、携帯片手に部屋をウロウロする。だけど自分からは連絡しにくかった。

『比べてるって! 感じるんだ。千尋はいろんなことを、加藤先輩と比較してる』

 あの言葉が、小骨のように胸の中に突き刺さっていた。比較してるつもりなどなかったのに、洸が感じ取る何かを私がしていたのかもしれない。だから……。

「電話して、謝ればいいのかな?」

 つらそうだった洸の顔、あんなの初めて見た。もしかしたら今まで、無理をさせていたのかもしれないな。

 昨日もこっそり家まで行ったらシルバーに睨まれた挙句、手でシッシと追い払われた。彼氏に近づけない彼女って、いったい――。

「あ~もぅ、イヤだ~」

 ベッドにつっぷして、うだうだしてたらノックの音がした。

「姉ちゃん、水留さんに会えないからって、欲求不満が溜まってるんじゃないの?」

 失礼なことを言いながら、妹が入ってきた。

「欲求不満なんて、溜まってないよ」

「隣の部屋まで文句が駄々漏れして、かなぁり迷惑なんだけど! いったい、何があったの?」

 成り行きで、事情を説明する。頷きながら静かに聞いてた妹だったけど、

「水留さんの気持ち、めっちゃ分かる。姉ちゃんがすべて悪いよソレ」

 見るからに渋い表情で言い放った。

「私の彼氏の元カノが芸能人並みの美人で、何でもできた人だったんだ。そんな彼女に負けないように、無理していろいろ彼に尽くしてたのね。しばらくしたら彼が言ったの。お前にはお前の良さがあるんだから、それ以上頑張らなくていいよ、そんなところに惚れたんだからって。それからすっごく楽になってね、いつもの自分でいられるようになったんだ」

「へぇ、アンタも見えないトコで苦労してたんだ」

 そんなつらさを出さず、いつも明るく家で接していた妹。

「姉ちゃんのことだから水留さんが加藤さんに負けないように、一生懸命に頑張っていたことについて、気づいてないしょ」

「……確かに」

「しかも良いトコを誉めてあげるなんて芸当、絶対にできないよね。姉ちゃん、本当に気が利かないから」

「……できていませんね、ハハ」

 苦笑いしてやり過ごしてしまうのが必死なんて、本当バカみたいだ。

「憧れの加藤さんと付き合ってた姉ちゃんと付き合うには、相当の勇気が必要と思うよ。加藤さんより姉ちゃんを喜ばせようと、いろいろ必死に頑張ってきたんだろうなぁ。その緊張の糸が切れたんだろうね」

「……切れたのか」

「ホント、姉ちゃんダメな彼女だわ。もう少し優しくするなり、褒めるなりして、水留さんに自信をつけてあげていれば、こんなことにはなってなかったと思うよ」

「……反論する言葉もありません。おっしゃる通りです、はい」

 洸に甘えっぱなしだった。いつも傍にいるのが、当たり前になっていた。しかも、褒めるなんて考えもしなかった。自分の気持ちさえ伝えていれば、分かってくれるって思い込んでいたところもある。

「てっきり変な悪霊にでもとり憑かれて、頭がおかしくなって騒いでると思った。それなりにマトモなネタで、悩んでいて良かったわ」

「マトモなネタって?」

 人の悩みを、ネタ扱いですか。

「時々姉ちゃんの部屋から変な空気がしてたから、少しだけ気になっていたんだよ」

(もしかして、シルバーや赤髪の死神が来たときかな)

「ハハ……、そんな空気が流れてたんだ。何だろうね」

「まったく……。変なところが悟いくせに、肝心なトコ鈍いよね。あれ? 外からバイクの音が聞こえてるよ?」

 ふたりで、部屋の窓から外を見る。
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