還魂―本当に伝えたかったこと―
「でも俺はおまえを置いて死んだりしない、絶対に。だから、ふたりで幸せになろうな」

 体の奥から沸き上がってくる熱いものが、涙に変わってぽろぽろと零れ落ちた。

「何か今のせりふ、プロポーズみたいだね」

 泣きながらいうと、さらにぎゅっと抱き締める。

「俺はずっと、千尋の傍にいたいって思ってるから。どんなにおまえの体型が変わっても振らないからな、多分……」

「多分って何よ……」

「そこ笑うところだろ、泣くなよ。笑え」

 そう言って、私の両方のほっぺをグイッと引っ張る。

「痛いよ洸……」

 どうしよう、幸せ過ぎる。

『そろそろヤツを狩る時間(とき)がきたようだな。覚悟はできたか?』

 突然シルバーの声が、頭の中に響いてきた。

 覚悟はできたかって、胸いっぱいの幸せに感じているときにできるワケがない。

『今夜、キサマの家に行く』

 ここでシルバーの声は、プツリと切れてしまった。

 洸が事故る……。その時間は迫っているんだ。

「どうした、何て顔してるんだ千尋」

 不意に顔を覗き込まれる。

 マズい、明るくしなきゃ心配させてしまうよね。

「やっ……。だって無理やり笑えって言われても困っちゃって。私が嘘をついたのに、洸がすんなり許してくれたから」

「俺は、ふところが大きな男だからな」

 そう言って、胸元を拳でドンと叩く。

 まったく。それを言うなら、ふところが広いでしょう。

 思わず噴き出した私を見て、洸は苦笑いを浮かべた。

「だから変なことで悩むくらいなら、俺に相談しろよ、な?」
 
 もしかして些細な仕草で、考えてることがバレてる!?

「分かった。何かあったら、洸に真っ先に相談するね」

「その代わり、報酬は体で返してもらうゾ」

 せっかく頼ろうとしたらコレだよ、洸らしいといえばそうだけど。

「ところでさ、加藤先輩って、アッチはどうだったんだ?」

「アッチって、どっち?」

「アレだよアレ。見た目テクニシャンって感じだよなぁ、持続時間は? 回数はどうだった?」

「あの……。さっき俺色新色に染めてやるって言ってたそばから、どうしてその質問をするのかな洸くん」

 溜め息混じりに呆れながら言ってやる。

「正直、アッチの経験少ないからさ。千尋が満足してないんじゃないかと思って」

「経験どうこうよりも、大事なことがあるんじゃない?」

 白い目をして言うと少しだけ赤面した。

「ん……大事なことか。もっと激しくしてほしい?」

 なんていう、ピントのズレた回答してくださった。

「激しいのは横に置いてよ。まったく……」

「右から左に流していいのか?」

「確かにソレも大事だけど、その源は何なの?」

(またピントのズレた返事をしたら、思いっきりぶってやる!)

「みなもとぉ? ああ……オマエを想う気持ちだろうなぁ」

「そうだよ、洸が私のことをたくさん愛してくれるから、うれしくて幸せなんだよ。私なりに洸に分かるように努力してきたつもりだったのに、どうやら一方通行だったみたいだね」

「俺のアンテナは受信感度が悪いみたいだから、千尋が分かりやすいリアクションしてくれたら、かなり助かるけど」

 分かりやすいリアクションって、どうすればいいの……

 洸の台詞にげんなりしつつ、逆に助かった。こういう馬鹿みたいなことでも言ってないと、泣き出してしまいそうだったから。現実に目を向けるのが怖かった。

「洸の馬鹿、もう知らない!」

 幸せ過ぎて涙が出る。これから起こるであろう、未来への不安で涙が出る。そして今、私ができることは――

 離れているシルバーと目が合う。

 今夜、すべてが分かるんだね。

 そう思った瞬間、やるせない表情をしたシルバーに、これから行われることが大変なことが分かってしまった。覚悟しなきゃいけないんだね。

 私がほほ笑むと、シルバーは困った顔をしながら俯いた。

 そんな私を洸が優しく抱き締めてくれる。いつまでもこうしていたいと思った。
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