還魂―本当に伝えたかったこと―
***
「洸、お待たせ!」
病院に通うのは今日で二日目。後遺症もなく目に見える傷も順調に回復しているのか痛そうなそぶりもなく、元気いっぱいに見える。
「お仕事お疲れさん、忙しかったか?」
バイクの雑誌を手にしながら、笑顔で話しかけてきた。
「いつも通りだったよ。はいこれ、昨日洗った洗濯物。今日の分、ちょうだい?」
「何か悪ぃな、余計な世話をかけさせて」
そう言って、すまなそうに頭を掻く。
「私としては洸のお世話ができることは、とっても嬉しいよ」
正直なところ何かしていなければシルバーのことを考えてしまうから、洸の頼まれ事はちょうど良かった。私のせいで彼は今頃、どんな目に遭っているのか気になって仕方ない。
「寂しいか? 傍にいてやれなくてゴメンな」
「やだな、もう。さっきから謝ってばかりだよ」
苦笑いすると、洸は私の左瞼にそっと触れる。
「実は寂しくて泣いてるだろ。ここ、腫れぼったいぞ」
瞼に触れている手に、自分の手を重ねた。
「心配ご無用、これは嬉し泣きだから。洸が無事で良かったって」
シルバー……あっちで、どうしてるだろう。
そんなことを考えながら、左手の平をそっと見てみる。
手首まであった生命線が、半分くらい消えていた。根元から途中まで太くなっている線が今まで生きた証になるなら、残りは軽く見積もって10年~15年くらいになるかもしれない。
「言ったろ、俺は不死身なんだ」
見つめていた左手を突然掴み、洸の傍へと引き寄せる。
「だから、そんな顔すんな」
奪うようなキスに目を白黒させた。ここは6人部屋な上に、カーテンだけで仕切られた空間。そこに誰かが入ってきたら、どうするの!?
「ん……っ」
抗議したくてもいつぞやのとき同様に、口が塞がれて何も言えない。
「声出すなよ、馬鹿」
解放されたと思ったら耳元で苦情をコソッと言われ、耳たぶを甘噛みされた。
その言葉に、慌てて両手で口を塞いだ。そんな私の行動を見ながら、首筋に唇を滑らせていく。
困り果てたときの最終手段――洸の右肘を思いっきり、ぎゅっと掴んでみた。
「いっ……」
私の体を放り出し、右肘を押さえて身もだえる。ちょうど大きな傷があるところだったので、思った通りに動きを止めることに成功した。
「まったく……。油断も隙もないんだから」
「だって千尋を独占したいんだから、仕方ないじゃん」
悪びれる様子もなく当然の主張だと言わんばかりの口調に、クスクス笑ってしまった。
「寂しいのは、オマエだけじゃないんだからな。でもこうやって、毎日会えるから入院もラッキーだと思ってる、今日この頃」
「入院は入院でも、事故による入院は金輪際止めてよね」
白い目をして呆れながら言うと、ガバッと布団に潜ってゴソゴソ隠れる。
「本当にごめ~ん」
反省の色がない声が、布団の中から聞こえてきた。そんな洸を布団ごと、両腕を使って強く抱き締めてあげる。
(私の寿命……きちんとうつし還すことができて良かった)
布団ごしでも分かる、洸の温もりに幸せを感じる。春のお日さまの光のように優しい。そんな光に、きっとシルバーも惹かれたんじゃないかな。人を惹き付けて止まないこの温かい光に――
残された私の短い寿命の中で、少しでも多く洸と一緒にいたい。
シルバーが呼び出しをされた技を使ってわざわざ助けてくれたことを感謝しながら、布団の中にいる洸の背中に頬擦りをした。
シルバー、今どうしてる?
彼への心配がずっと尽きずにいるせいで、洸の前では作り笑いするのが精一杯だった。
「洸、お待たせ!」
病院に通うのは今日で二日目。後遺症もなく目に見える傷も順調に回復しているのか痛そうなそぶりもなく、元気いっぱいに見える。
「お仕事お疲れさん、忙しかったか?」
バイクの雑誌を手にしながら、笑顔で話しかけてきた。
「いつも通りだったよ。はいこれ、昨日洗った洗濯物。今日の分、ちょうだい?」
「何か悪ぃな、余計な世話をかけさせて」
そう言って、すまなそうに頭を掻く。
「私としては洸のお世話ができることは、とっても嬉しいよ」
正直なところ何かしていなければシルバーのことを考えてしまうから、洸の頼まれ事はちょうど良かった。私のせいで彼は今頃、どんな目に遭っているのか気になって仕方ない。
「寂しいか? 傍にいてやれなくてゴメンな」
「やだな、もう。さっきから謝ってばかりだよ」
苦笑いすると、洸は私の左瞼にそっと触れる。
「実は寂しくて泣いてるだろ。ここ、腫れぼったいぞ」
瞼に触れている手に、自分の手を重ねた。
「心配ご無用、これは嬉し泣きだから。洸が無事で良かったって」
シルバー……あっちで、どうしてるだろう。
そんなことを考えながら、左手の平をそっと見てみる。
手首まであった生命線が、半分くらい消えていた。根元から途中まで太くなっている線が今まで生きた証になるなら、残りは軽く見積もって10年~15年くらいになるかもしれない。
「言ったろ、俺は不死身なんだ」
見つめていた左手を突然掴み、洸の傍へと引き寄せる。
「だから、そんな顔すんな」
奪うようなキスに目を白黒させた。ここは6人部屋な上に、カーテンだけで仕切られた空間。そこに誰かが入ってきたら、どうするの!?
「ん……っ」
抗議したくてもいつぞやのとき同様に、口が塞がれて何も言えない。
「声出すなよ、馬鹿」
解放されたと思ったら耳元で苦情をコソッと言われ、耳たぶを甘噛みされた。
その言葉に、慌てて両手で口を塞いだ。そんな私の行動を見ながら、首筋に唇を滑らせていく。
困り果てたときの最終手段――洸の右肘を思いっきり、ぎゅっと掴んでみた。
「いっ……」
私の体を放り出し、右肘を押さえて身もだえる。ちょうど大きな傷があるところだったので、思った通りに動きを止めることに成功した。
「まったく……。油断も隙もないんだから」
「だって千尋を独占したいんだから、仕方ないじゃん」
悪びれる様子もなく当然の主張だと言わんばかりの口調に、クスクス笑ってしまった。
「寂しいのは、オマエだけじゃないんだからな。でもこうやって、毎日会えるから入院もラッキーだと思ってる、今日この頃」
「入院は入院でも、事故による入院は金輪際止めてよね」
白い目をして呆れながら言うと、ガバッと布団に潜ってゴソゴソ隠れる。
「本当にごめ~ん」
反省の色がない声が、布団の中から聞こえてきた。そんな洸を布団ごと、両腕を使って強く抱き締めてあげる。
(私の寿命……きちんとうつし還すことができて良かった)
布団ごしでも分かる、洸の温もりに幸せを感じる。春のお日さまの光のように優しい。そんな光に、きっとシルバーも惹かれたんじゃないかな。人を惹き付けて止まないこの温かい光に――
残された私の短い寿命の中で、少しでも多く洸と一緒にいたい。
シルバーが呼び出しをされた技を使ってわざわざ助けてくれたことを感謝しながら、布団の中にいる洸の背中に頬擦りをした。
シルバー、今どうしてる?
彼への心配がずっと尽きずにいるせいで、洸の前では作り笑いするのが精一杯だった。