還魂―本当に伝えたかったこと―
***

「上の許可なく還魂(かんこん)の儀式をし、死すべき対象を生かした罪は深く更に――」

 目の前で次々と罪状が読み上げられていくのを立ったまま目をつぶり、じっとして聞いていた。

 きっと俺は間違いなく、死神の任を解かれるであろう。1度ならず2度も、死すべき人間を助けたんだから当然の報いだ。

 今までは完全なる死神が持つ力が欲しくて、仕事をきちんとこなしていた。淡々と事故を起こして人を死に追いやることに、罪悪感などまったく感じなかった。あの日までは――

『シルバー……』

 どうしてアイツの顔が浮かぶのだろう。まるでおいてきぼりをくらった、小さな子供のような顔をしていた。こんな俺のために、あんな顔をする必要はないというのに。

「……よってこれより、死神としての地位の剥奪ならびに」

 判決が下される前に、持っていた仕事道具を振り回した。止めに入ろうと、他の死神が一斉に大鎌を構えながら自分を狙う。

「俺にはやり残したことがある。行かせてくれ!」

 低い声で言った瞬間、5人の死神が俺を襲ってきた。
 
 間一髪で、向けられたそれぞれの大鎌をかわす。しかし向こうは年期が入った死神たち。無傷では戦えなかった。

 かすり傷を負いながらも繰り出される大鎌の隙をついて、下界に向かう呪文を唱える。神様が右手を上げて俺を消滅させようと掌から光線が出た瞬間に、下界へ通じる扉が開いた。光線を避けるように扉の中に体を滑り込ませて、ギリギリのところで難を逃れた。

 静まり返った審議の場で、攻撃をしかけていた死神たちが姿勢を正す。

「神様ってば毎度毎度、猿芝居がお好きですわね」

 ため息をつきながら告げた赤髪の死神の傍らには、折られた大鎌がぽつんと落ちていた。

「これでまた、有能な死神がひとり減りました。良いのを捜して、教育しなくちゃだわ」

 肩をすくめて長い赤髪をなびかせながら、どこかに消えていく。

「以上をもって、閉廷とする!」

 彼女が消えると同時に告げられた神様の言葉で、審議の場からすべての死神が消えたのだった。
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