還魂―本当に伝えたかったこと―
act:与えられた優しさの果てに
***

 俺は日ごろから夢を見ても覚えない体質なのに、朝方不思議な夢を見た。まるで映画鑑賞のような感じで、どこからかその場面を見ている。

 真っ白な髪に全身を覆い隠すような黒い服を着た男が、小さい子供を片手で抱き締めていた。

 彼の見つめる先には、何かが燃えている。それが何かの拍子に爆発したとき、子供を守るように背を向けた。その瞬間、かぶっていたフードが外れ、ひとつに束ねられている白い髪の毛がゆらゆらと爆風でなびいていた。子供が男にすがり付くと、困った顔をしながら言った。

「キサマの父親を死なせたのに、どうしてそんな風に甘えられるんだ?」

 なおもぎゅっとすがり付く子供をもて余しながら、どこかに歩いて行こうとする男。不意に立ち止まり、空いている手で頭を押さえた。

「くっ……何なんだ、この映像は……」

 とてもつらそうな顔をして目をつぶる男に、子供が彼の頬を撫ではじめる。

 やがて呼吸を整え目を開けた男は、心配そうにしている子供をじっと見つめた。

「……体は小さいのに、なんて重たい命なんだろう。そして温かい手をしているな」

 男は子供の手を握り締めたら、子供は嬉しそうに笑った。

「どうすれば、キサマを幸せにできるのだろう? 厄介な頼まれ事を押し付けられてしまった」

 厄介といいながら男の表情はとても優しそうな感じで、見ていてホッとする。

「キサマの処分は偉い人が決めてくれるだろうから、大人しくここで待っていろ」

 どこかの草むらへ、ポンと無造作に子供を置く。すると手を伸ばして泣き出す子供の騒がしさに、男は自分の耳を塞いだ。困り果てた顔をしながら、辺りをキョロキョロする。

 するとタイミングよく、車が男の横を通った。その車の前にひらりと飛んでいくと、持っていた大きな鎌でタイヤを切り裂いた。音を立ててタイヤがパンクして急停車し、出てきたカップルが車の様子を見に外に出てきた。

 男は泣き叫ぶ子供の襟首を掴むと、車が通るであろう道路の中央に置く。

「ちょっと、何であんな小さい子が道路にいるの?」

 カップルには、男の姿が見えないらしい。

「パンクしてなかったら、ひいてるトコだった、危なかったなぁ。あれ? 崖下から煙があがってるぞ」

 泣いてる子供を抱き上げながら、崖下を覗き込むカップル。男はその様子を見て、安心したような顔をしていた。

『あの父親はどうして、自分の命を投げ出すことができたのだろうか……』

 そう呟きながらパッと消えた男に、俺は思った。

 もしかして以前千尋が見たという死神は、あの男なんじゃないかと。あとから嘘だと訂正したけど、腑に落ちない点があって、何となく気になっていた。

 ゆっくり目を開くと、もう朝が来ていた。

 どうして、こんな夢を見たんだろう?
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