還魂―本当に伝えたかったこと―
***

「うわっ、千尋……。何て顔してんだよ」

 開口一番の洸のセリフ。

 シルバーの心情を考えると、どうしても涙が止まらなくなってしまって、泣きながら病院に来てしまった。

「あきらぁ……。何から話したらいいか分からないよ……」

 がしっと洸の体に抱きついて、腕の中で声をあげて泣いた。そんな私をなだめながら、病院の屋上まで連れて行ってくれる。

「ここなら気兼ねなく、思いっきり泣けるぞ。ティッシュも箱ごと持参したしさ。さぁ、どこからでもいい。ゆっくり話してみ?」

 私の背中をポンポンして、落ち着かせてくれる。

 一呼吸ついてから、初めてシルバーに会ったことから話をした。話の途中で口を覆い、何かを考える仕草をした意外は落ち着いて聞いていた洸。

「俺が死ななかったのは、千尋が寿命をくれたお陰だったんだな……。そして千尋の寿命を延ばしてくれたのが、シルバーという死神か」

「そうだよ。私に死神の力をうつしてくれて、今朝逝っちゃた……」

 口移しでとは、どうにも言いにくい。

「今朝か……。俺が映画を見るような、夢を見たときなのかな。やっぱりあの子供は俺で、白い髪をした男は死神だったんだ」

 感慨無量という感じで、はぁと深いため息をつく。

「てっきり俺は、ものすごくツイてる男だと思ってた。実際は親父や千尋、そして死神に守られていたんだな」

「洸が無事で本当に良かったよ。玲さんのときみたいに亡くなったらどうしようって、これでもかなり悩んだんだよ」

 屋上に置かれたベンチに並んで座っている洸の肩に頭を乗せると、体を包み込むように抱き寄せてくれる。

「しかも千尋が自分の寿命を削ってまで、俺を助けようとしたのが、結構ジーンときた。すっごく愛されてるんだなって、いまさら自惚れてる」

「私よりも、シルバーに感謝してよ。彼がいなかったら洸はこの世にいなかったんだし、私に出会えてなかったのかもしれないんだよ」

 鼻息荒くして、少しだけ洸を叱ってみた。

「夢の中で見たシルバーは、とても優しそうだった。小さい俺を抱っこしてる手が、微妙に震えてたんだぜ」

「私は何かやらかすと不機嫌丸出しな顔で睨みながら、ど阿呆って怒られてた。口調はキツいのに、瞳がとても優しかったな」

 シルバーのことを思い出しながら、ふたりして次々と彼について喋ってしまった。

「今度生まれ変わったら、いい人生が送れるといいな」

「ねぇもし、私たちの子供に生まれ変わることになったらどうする?」

 ありえないことを訊ねてみたら、洸はとても嬉しそうに微笑んできた。

「もちろん無償の愛を、これでもかってぐらいに注ぐに決まってるだろ!」

 そう言って、両腕で強く体を抱き締める。

「私も同じだよ」

 ちょっとだけ涙ぐんで洸の体に腕を回しながら、ふたりで青空を見上げた。

 もし巡り会えるなら、洸とふたりでシルバーに会いたい。大切な貴方に恩返しがしたいから。ぶっきらぼうで優しかった貴方に会いたいって思っているんだよ。


終わり
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