還魂―本当に伝えたかったこと―
***

 私は人に見えないモノが見えた。それは幼いときからで、他の人にも当然それが見えていると思っていた。

 小学校にあがってから、それはおかしいと友達から言われたのをきっかけに隠すようにした。隠していく内にだんだんとその力はなくなり、自分に危害を加えそうなアブナイモノ以外は、まったく見えなくなった。

 他には直感力。良い悪いに関わらず、自分に何かしらあると心がざわついた。

 その日は朝から何だか落ち着かなくて、手にしている物を落としたり、お味噌汁をひっくり返したり――ああ、何かあるんだなぁと、心の準備をして1日を過ごしていた。

「まったく! あの教授ときたら、どんだけ課題を出すんだか」

 大学の渡り廊下を図書館に向かいながら、仲の良い男子と歩いていた。

 水留 洸(みずとめ あきら)、大学入試の時にひょんなことから知り合った。

 周りの友達は彼と私が付き合っているみたいだと言うけれど、水留を男性として意識することができなかった。かまうとムキになって食ってかかってきたり、ヘラヘラしているところが彼氏以前の問題だったから。

 まぁ、いいヤツには変わりないんだけどね。

「よぉ洸、彼女連れて、どこに行くんだ?」

 聞き覚えのある声優の声が、後方から聞こえた。

 嬉々として振り返った私の目には白い光りに包まれて、その人が一瞬見えなかった。あまりの眩しさに目を一旦閉じてからゆっくり開けるなり、そこにいる人物に釘付けになる。

 緩いカーブの漆黒の髪の下にある、涼しげに見える一重の瞳がカッコいい。左耳にしたピアスと、黒っぽい革ジャンをオシャレに着こなしているだけじゃなく、身長も水留より10センチは高い。足が長いだけで無条件に格好良い。

 ……ってそういえばこの人ってば、彼女連れてって言ってたよね。私は水留の彼女じゃないし!

 横にいる水留の顔を睨んだら、慌てて彼に紹介をしてくれた。

「加藤先輩、彼女は友達の廣田さん。加藤先輩はバイク乗りのサークルの先輩なんだ」

(加藤先輩……、バイクに乗るんだ、きっとこんだけ恰好良かったら様になるんだろうな)

 そんなことを考えてると、突然定例会という飲み会に誘われた。もしかしてこれがきっかけで、お近づきになれるかもしれない。

「私バイクに乗れませんが、出席しても大丈夫なんですか?」

 加藤先輩はこれだけ格好良いんだから、彼女がいるかもね――。

 おずおずと窺っていたら、優しく微笑んで拝んでくる。

 渋ったフリして、二つ返事で了承した私。見えない何かが、私の心を叩く瞬間だった。
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