還魂―本当に伝えたかったこと―
***
玲さんのお通夜もお葬式も、周りがびっくりするくらいに私は冷静にいられた。涙が出なかった、とても悲しかったというのに――。
一瞬消えたあの瞬間にもう少し駄々をこねて玲さんを足止めしていれば、もしかしたら事故らずに済んだかもしれない。あるいは、呼び止めずにスルーしていれば。
私は自分を責めていた。自分の持つ中途半端な力は、上手く利用することができない。予兆は確かにあったのに、玲さんを死なせてしまったと考えた。
しかも現在は、幽霊をまったく視られなかった。昔のように見えてたら玲さんに会えるかもしれないのにと、嘆いて日々を過ごすしかなかった。
見えないと分かっていながら、斎場や事故現場を延々と捜して歩いた。
(玲さん、どこにいるの? 会いたいよ。今度の休みにまた違う場所で星を見ようって、指切りして約束したよね。どっちが流れ星を見つけるか、競争だって言ってたよね)
『でもきっと俺は、千尋の顔ばかり見ちゃうんだろうな』
玲さん笑いながら言ってた。私の頭を撫でながら――。
「玲さん……」
自分の部屋でしんみりしていると、ノックの音と一緒に妹が入って来た。
「姉ちゃん、今日も水留さんがノートを届けてくれたよ」
毎日講義のノートを、ご丁寧にコピーして届けてくれる水留。
私が何も答えずにいたら、妹は机の上に置かれているコピーの山の上にそれを置いた。
「姉ちゃん、自分を責めてもしょうがないよ。加藤先輩はきっと、短命の運命だったと思う」
妹も私と似たような力があった。
「運命……?」
「初めて加藤先輩を見たときに、何となくだけど思ったんだよ。身にまとってる雰囲気が、とっても淡い色だったから。それを私が伝えたとしても、どうにもならないよね?」
淡い色――私には、そんなのまったく分からないよ。
「玲さん、ちゃんと成仏でき来てるかな……」
「私もそこまで、力ないから分からない。だけど姉ちゃんがこのままでいたら、加藤先輩は間違いなく心配するよね?」
(――心配して、目の前に出てきてくれないかな)
両膝をぎゅっと抱えて、下唇を噛んだ。
「残された人は、亡くなった人の分までしっかり幸せにならなきゃいけないって思うんだ。今はつらいかもしれないけど、しっかりしなきゃ。水留さんも同じようにつらいはずなのに、頑張ってるみたいだよ」
妹に諭される姉の私って、ホントに情けない。
「お父さんとお母さんも心配してる。ご飯だって、まともに食べてないし……。私も何が手助けができなくて、正直なところ歯がゆいよ」
みんなに心配かけてる、あの水留にまで――。
スマホを見ると、他の友達からもたくさんメッセージが届いていた。それを眺めながら、奥歯をぎゅっと噛み締める。
玲さんが『千尋の笑顔は、和むよ』なんて言って、優しい眼差しをしながら私を撫でてくれた。玲さんと過ごしたことを思い出すたびに、胸が軋んで痛んだ。あまりにもつらすぎて、死んで玲さんのそばにいきたいとも考えていた。
でもそれをすると怒られちゃうだろう。いい加減、そろそろ立ち上がらきゃいけない。笑顔で頑張らなきゃいけないよね。
「明日から、大学に行くことにするよ」
心配してくれたみんなに、お礼参りをしないと。
「お腹が空いたから、久しぶりにご飯を食べる……」
「姉ちゃん! きっとお母さんが喜ぶと思う」
そうして、妹と一緒に部屋をあとにした。
玲さんのお通夜もお葬式も、周りがびっくりするくらいに私は冷静にいられた。涙が出なかった、とても悲しかったというのに――。
一瞬消えたあの瞬間にもう少し駄々をこねて玲さんを足止めしていれば、もしかしたら事故らずに済んだかもしれない。あるいは、呼び止めずにスルーしていれば。
私は自分を責めていた。自分の持つ中途半端な力は、上手く利用することができない。予兆は確かにあったのに、玲さんを死なせてしまったと考えた。
しかも現在は、幽霊をまったく視られなかった。昔のように見えてたら玲さんに会えるかもしれないのにと、嘆いて日々を過ごすしかなかった。
見えないと分かっていながら、斎場や事故現場を延々と捜して歩いた。
(玲さん、どこにいるの? 会いたいよ。今度の休みにまた違う場所で星を見ようって、指切りして約束したよね。どっちが流れ星を見つけるか、競争だって言ってたよね)
『でもきっと俺は、千尋の顔ばかり見ちゃうんだろうな』
玲さん笑いながら言ってた。私の頭を撫でながら――。
「玲さん……」
自分の部屋でしんみりしていると、ノックの音と一緒に妹が入って来た。
「姉ちゃん、今日も水留さんがノートを届けてくれたよ」
毎日講義のノートを、ご丁寧にコピーして届けてくれる水留。
私が何も答えずにいたら、妹は机の上に置かれているコピーの山の上にそれを置いた。
「姉ちゃん、自分を責めてもしょうがないよ。加藤先輩はきっと、短命の運命だったと思う」
妹も私と似たような力があった。
「運命……?」
「初めて加藤先輩を見たときに、何となくだけど思ったんだよ。身にまとってる雰囲気が、とっても淡い色だったから。それを私が伝えたとしても、どうにもならないよね?」
淡い色――私には、そんなのまったく分からないよ。
「玲さん、ちゃんと成仏でき来てるかな……」
「私もそこまで、力ないから分からない。だけど姉ちゃんがこのままでいたら、加藤先輩は間違いなく心配するよね?」
(――心配して、目の前に出てきてくれないかな)
両膝をぎゅっと抱えて、下唇を噛んだ。
「残された人は、亡くなった人の分までしっかり幸せにならなきゃいけないって思うんだ。今はつらいかもしれないけど、しっかりしなきゃ。水留さんも同じようにつらいはずなのに、頑張ってるみたいだよ」
妹に諭される姉の私って、ホントに情けない。
「お父さんとお母さんも心配してる。ご飯だって、まともに食べてないし……。私も何が手助けができなくて、正直なところ歯がゆいよ」
みんなに心配かけてる、あの水留にまで――。
スマホを見ると、他の友達からもたくさんメッセージが届いていた。それを眺めながら、奥歯をぎゅっと噛み締める。
玲さんが『千尋の笑顔は、和むよ』なんて言って、優しい眼差しをしながら私を撫でてくれた。玲さんと過ごしたことを思い出すたびに、胸が軋んで痛んだ。あまりにもつらすぎて、死んで玲さんのそばにいきたいとも考えていた。
でもそれをすると怒られちゃうだろう。いい加減、そろそろ立ち上がらきゃいけない。笑顔で頑張らなきゃいけないよね。
「明日から、大学に行くことにするよ」
心配してくれたみんなに、お礼参りをしないと。
「お腹が空いたから、久しぶりにご飯を食べる……」
「姉ちゃん! きっとお母さんが喜ぶと思う」
そうして、妹と一緒に部屋をあとにした。