隠れクール上司 2 ~その素顔は君に見せはしない~
こんな時に限って体調が悪いと出て来てくれない航平は、電話ならいいよとそれだけには応じてくれた。
昼間のやりとりをあらかた話す。
たが、聞いているのかどうなのか、咳が時折聞え、本当に具合が悪そうだった。
『はあ……で?』
「それだけ」
『もう切っていい?』
「え、何でよ!! 聞いてるじゃん! 私の目標どうするかって」
『そんなの自分で考えなよ』
「いや、いい。航平君に決めて欲しい。それが絶対私には一番合ってるやつだから」
言い切って、待つ。
『あのねえ…。それを営業部長に聞いてくるやついる?』
「え……そりゃ、もし営業部長が航平君じゃなかったら聞かなかったと思うけど」
『そういう意味じゃなくて……それは自分で考えるもの、はい以上』
「え、だっていつもは色々教えてくれたじゃん!」
『それは業務内容でしょ? はい、おやすみ』
「待って、待って、待って!」
『……』
「なんか、本当に調子悪そうだよね」
『んー』
話す気がないのが分かる。
「あの、看病しに行こうか」
『は?』
提案のわりに、随分嫌そうな声だ。
「いやあの、何か聞こうとか思ってるわけじゃないから!」
『…いーよ』
「だってさ……なんかすごいお世話になったし。せめて、こんくらいなら役に立つかもしれないし」
『今もう12時だよ? いいよ。普通に寝た方が良くなる……』
「だけどさ。時間にも関係なく、よくしてくれるじゃん。航平君、いつも」
『……その気持ちだけで充分だよ。……それより明日は仕事だから……早く寝たい………』
「あそう……。ごめんね。出て来てって無理言って」
『いいよ……。可愛い妹だから……』
え、へーーーー、そんな風に思ってたんだ。
『………』
束の間沈黙になってしまう。
よく聞くと電話の向こうからは寝息が聞こえてきた。
本当に調子が悪かったんだなと反省して、美生はスマホのディスプレイをそっと一押しする。
別に下心があったわけではなく、もちろん単純にお粥でも作りに行こうかなと思っただけだ。
随分拒否されたけど…まあ、眠かったってことだろう。
美生はそれ以上何も考えず、溜息をついて、今一度スマホのディスプレイを明るくさせた。