にせもの王子さま
王子さまが顔を上げて、私と目があったのを確認してから、猛ダッシュで横断歩道を渡り、道の向こうへ。
道行く人にジロジロ注目されて恥ずかしいとか、もうなりふり構っていられなかった。

だって、クビがかかってる!

美容院の前を通るときに、美容院に戻ろうとしていた人までその場で止まっていることに気付いた。
ああ。美容院の前にいる人って言ったから、止まっちゃったのか。

だけど、目的はあなたじゃないんです。ごめんなさい!

その人を通り越し、王子さまの前で足を止める。
日頃の運動不足がたたって、思いっきり息があがっていた。
膝に手をついて、乱れた息を整えながら、何とか王子さまの顔を見た。
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