にせもの王子さま
「社長に報告は?」

水上さんが階数表示を見ながら言う。

「今からなんです。 あと、面談の日も決めないと」

そう、今からする事はたくさんある。
でも朝と違って、社長に会うのは怖くない。
だって、クビにならずに済むかもしれないから。

嬉しくて、鼻歌でも歌い出してしまいそうなテンションだ。

首を繋げてくれるかもしれない悠さんは、私にとって、物語の中でピンチに陥ったお姫さまを助けにやってきた王子さまのような人。

いや、もちろん私がお姫さまではないのはわかってるよ。
でも、イメージとしてそんな感じ。

今日初めて出会ったばかりだから、まだわからないところだらけだけど・・・悠さんにとっても、まだわからないところだらけのはずの私を助けようとしてくれたし、きっといい人だろうな。

なんて浮かれていた私は、この時、きっとあの一瞬を見落としていたんだーーー。
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