異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「でも、今は救える命を確実に守らなければ」
そう自分に言い聞かせるように呟いて、私は周りを見ないように足を動かす。悲鳴と銃声とぶつかり合う金属の音がひっきりなしに鳴り響く戦場の中を進みながら、ようやく幕舎に到着した。
「負傷兵ですね、すぐに手当てを……え?」
幕舎の中から出てきたのは、癖のある桃色の髪にアーモンド色の瞳をした十五歳くらいの男の子だった。彼は丈の長い白のスモックに、セピア色のズボンを履いている。それから背中に大きく金糸で紋章が刺繍されている濃紺のローブを羽織っており、動いても落ちないよう金の紐で結び、留めていた。
この紋章、どこかで……。
既視感を覚えてすぐに、私が支えている男性の鎧にも同じ紋章が刻まれていたことを思い出す。
「ここはエヴィテオール国の第二王子、シェイド様が率いる月光十字軍です。シェイド様は王位争いで兄である第一王子のニドルフ様に敗れ、我ら月光十字軍ならびに治療班は敗戦軍としてその身を追われています」
応急手当をした男性が、言葉を失っている私に説明をしてくれる。それでもなお、理解はできなかった。否、心が受け入れられない。
エヴィテオールなんて国名、聞いたことがない。王子に月光十字軍だなんて、まるで物語のような単語ばかりだ。完全に私のキャパシティーを超えている。
「僕はマルク・クラスファー、新米治療師として本軍に参加しています。それで、あたなたはどちら様でしょうか」
まだあどけなさの残る白衣の男の子はマルク・クラスファーというらしく、二重の大きな目を丸くして私を見つめていた。
「私は水瀬若菜です」
「若菜さん……あの、この手当はあなたが?」
マルクは私の支えている男性の傷を見て、目を瞬かせている。なにかを答えようとしたとき、男性が「この方は医術の心得があります」と言った。それを聞いたマルクの目が、希望を宿したように輝く。
そう自分に言い聞かせるように呟いて、私は周りを見ないように足を動かす。悲鳴と銃声とぶつかり合う金属の音がひっきりなしに鳴り響く戦場の中を進みながら、ようやく幕舎に到着した。
「負傷兵ですね、すぐに手当てを……え?」
幕舎の中から出てきたのは、癖のある桃色の髪にアーモンド色の瞳をした十五歳くらいの男の子だった。彼は丈の長い白のスモックに、セピア色のズボンを履いている。それから背中に大きく金糸で紋章が刺繍されている濃紺のローブを羽織っており、動いても落ちないよう金の紐で結び、留めていた。
この紋章、どこかで……。
既視感を覚えてすぐに、私が支えている男性の鎧にも同じ紋章が刻まれていたことを思い出す。
「ここはエヴィテオール国の第二王子、シェイド様が率いる月光十字軍です。シェイド様は王位争いで兄である第一王子のニドルフ様に敗れ、我ら月光十字軍ならびに治療班は敗戦軍としてその身を追われています」
応急手当をした男性が、言葉を失っている私に説明をしてくれる。それでもなお、理解はできなかった。否、心が受け入れられない。
エヴィテオールなんて国名、聞いたことがない。王子に月光十字軍だなんて、まるで物語のような単語ばかりだ。完全に私のキャパシティーを超えている。
「僕はマルク・クラスファー、新米治療師として本軍に参加しています。それで、あたなたはどちら様でしょうか」
まだあどけなさの残る白衣の男の子はマルク・クラスファーというらしく、二重の大きな目を丸くして私を見つめていた。
「私は水瀬若菜です」
「若菜さん……あの、この手当はあなたが?」
マルクは私の支えている男性の傷を見て、目を瞬かせている。なにかを答えようとしたとき、男性が「この方は医術の心得があります」と言った。それを聞いたマルクの目が、希望を宿したように輝く。