異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「彼らから話を聞いてみたほうがよさそうね」

 素直に教えてくれるのか不安になっていると、なにを勘違いしたのかダガロフさんが「なにかあれば俺が守ります」と声をかけてくれる。そこで初めて身の安全よりも薬を作れないことのほうが心配だったのかと、自分の仕事脳ぶりに苦笑いした。

「頼りになります、ダガロフさん。それでは行きましょうか」

 私たちは盗賊を閉じ込めている施療院の一室に向かう。部屋の扉を開けると、盗賊たちは呑気に眠りこけていた。羨ましいくらい神経が図太い。

「聞きたいことがあります。あなたたちが感染症にかからないのは、なにか対策をしていたからですか?」

 盗賊たちの前にしゃがみ込んで問いかけると、フンッと鼻で笑われる。

「一晩、お姉さんが相手してくれるんなら教えてやってもいいけど?」

「はははっ、そりゃあいい!」

 馬鹿にしたように高笑いする盗賊たちに、ダガロフさんは背中の槍に手をかける。シルヴィ治療師長やマルクも前に出ようとしたが、私は首を横に振って止めた。

「あなたたちの力を今度は誰かを助けるために使ってほしい」

 極めて冷静に、ゆっくりと語りかける。すると盗賊たちは笑うのをやめて、真意を探るような目で私を見てきた。

「どういう意味だよ?」

「ここにいる患者は明日生きられるかもわからない。でも、あなたたちがその明日を作ってあげられるかもしれない」

 彼らがなにかを知っている補償などないけれど、それならそれで私の言葉が少しでも心に届いて更生してくれればいいと思う。

 そんな気持ちでいたからか、侮辱されても優しく諭せた。

「力を貸してください」

 そう言って頭を下げたら、盗賊たちから「俺たちなんかに頭を下げんのかよ」と驚きの声が上がった。

 私は顔を上げて、真っすぐに彼らの顔を見つめる。

「お願いしているのは私ですから、当然のことです」

「……変な女だな、あんた」

 訝しげな顔をして、盗賊たちは顔を突き合わせると会議をする。話に乗るかどうか、そんな話が聞こえてきた。

 急かすことなく待っていると、ようやく結論が出たのか盗賊たちは私を見る。

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