異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「こいつ、ここにいる患者は明日生きられるかもわからない。でも、あなたたちがその明日を作ってあげられるかもしれない。だから力を貸してくれって頭を下げたんですよ」
「あとは、お願いをするのに失礼だからと、盗賊の縄を解いてましたね。しまいには盗賊たちにハーブビネガーを作らせていました。あの気概には参りました」
ダガロフさんまで私の姉さんぶりを語り始めてしまい、頭を抱えたくなる。シェイドはというと、今度はお腹を抱えて笑っていた。穴があるなら入りたい気分だ。
「それに若菜さんは自分が辱められるような言葉をかけられても、凛然としていました。僕はその強さに感動して……え?」
熱く語るマルクに、シェイドの笑い事がピタリと止まる。急激に冷える幌馬車内の温度と張り詰める空気。シルヴィ治療師長は額に手をあてて天を仰ぎ、盗賊たちは一斉に視線を彷徨わせている。
「……僕、なにかまずいことを言ってしまったでしょうか?」
困惑した表情で私に助けを求めるような視線を送ってくるマルクに曖昧な笑みを返す。それから隣を見上げれば、黒い笑みを顔に張りつけているシェイドがいる。
もう自意識過剰とは思わない。彼は私のことに関しては過保護だ。これを聞いたら怒るはず……なのだが、当の本人は笑っている。それがなお恐ろしい。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
ワントーン低くなったシェイドの声に触らぬ神に祟りなし、といったふうに明後日の方向を向いていた全員の肩がビクリと跳ねる。そこから小一時間、シェイドの笑顔で毒を吐く説教が始まったのは言うまでもない。
燃え立つような夕日が家々の影を細長く地に映す頃、私たちは城門の前に到着した。幌馬車から先に降りたシェイドは、自然に手を差し出してくる。
「若菜、手を」
「あ、ありがとう」
私のような一般市民もお姫様扱いしてくれる彼に胸が躍る。三十にもなって恥ずかしながら、こうして男性にエスコートされるという密かな夢が叶った。
上がる心拍数に気づきながら、平静な顔で幌馬車から降りた瞬間――。
「動くな!」
急に門番から槍を突きつけられる。シェイドが私を背に庇うのと、幌馬車から皆が出てくるのはほぼ同時。状況も理解できないまま、私たちはぞろぞろと出てきた兵に囲まれた。
「あとは、お願いをするのに失礼だからと、盗賊の縄を解いてましたね。しまいには盗賊たちにハーブビネガーを作らせていました。あの気概には参りました」
ダガロフさんまで私の姉さんぶりを語り始めてしまい、頭を抱えたくなる。シェイドはというと、今度はお腹を抱えて笑っていた。穴があるなら入りたい気分だ。
「それに若菜さんは自分が辱められるような言葉をかけられても、凛然としていました。僕はその強さに感動して……え?」
熱く語るマルクに、シェイドの笑い事がピタリと止まる。急激に冷える幌馬車内の温度と張り詰める空気。シルヴィ治療師長は額に手をあてて天を仰ぎ、盗賊たちは一斉に視線を彷徨わせている。
「……僕、なにかまずいことを言ってしまったでしょうか?」
困惑した表情で私に助けを求めるような視線を送ってくるマルクに曖昧な笑みを返す。それから隣を見上げれば、黒い笑みを顔に張りつけているシェイドがいる。
もう自意識過剰とは思わない。彼は私のことに関しては過保護だ。これを聞いたら怒るはず……なのだが、当の本人は笑っている。それがなお恐ろしい。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
ワントーン低くなったシェイドの声に触らぬ神に祟りなし、といったふうに明後日の方向を向いていた全員の肩がビクリと跳ねる。そこから小一時間、シェイドの笑顔で毒を吐く説教が始まったのは言うまでもない。
燃え立つような夕日が家々の影を細長く地に映す頃、私たちは城門の前に到着した。幌馬車から先に降りたシェイドは、自然に手を差し出してくる。
「若菜、手を」
「あ、ありがとう」
私のような一般市民もお姫様扱いしてくれる彼に胸が躍る。三十にもなって恥ずかしながら、こうして男性にエスコートされるという密かな夢が叶った。
上がる心拍数に気づきながら、平静な顔で幌馬車から降りた瞬間――。
「動くな!」
急に門番から槍を突きつけられる。シェイドが私を背に庇うのと、幌馬車から皆が出てくるのはほぼ同時。状況も理解できないまま、私たちはぞろぞろと出てきた兵に囲まれた。