異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「全ては俺を排除するための筋書きだ。バルトン政務官は俺ではなく、ニドルフ王子を国王に押しているらしい。議会では何度も月光十字軍の受け入れに反対し、エヴィテオールと同盟を組むよう発言している。おそらくバルトン政務官にとって有益な条件を二ドルフ王子から持ち掛けられていたのだろう。つまり、今も内密にエヴィテオールと繋がっていることになる。此度の感染症騒ぎも、その者が一枚噛んでいる可能性は大いにある」

 シェイドの話を聞いて背筋が凍る。

 自分の思い通りに事を進めるためだけに、バルトン政務官は城やエグドラの町に疫病を振り撒いたということ? だとしたら、人の命をなんだと思ってるの。

 亡くなっていった人たちのことを思うと、怒りが込み上げてくる。

「国を追われた俺はいま、ミグナフタの後ろ盾がほしい立場にある。なのに、ミグナフタ国を陥れるような真似をしてもなんの得もない。虚言に騙されるな、自らの信念のもとに動け。そして、俺を信じてくれるのならここを通してほしい」

 シェイドの口から紡がれる言葉には、偽りなど感じさせない誠意が宿っている。それは私だけでなく、この場にいた全員の心を揺さぶった。

 そして門番も兵もシェイドを信じることに決め、私たちを中へ通してくれた。中ではペストが蔓延しているという話だったのでエグドラの町に行くときと同じように口元を布で覆い、ガウンを羽織った。

 城内に足を踏み入れると、王宮治療師たちが駆け回っている。使用人たちが廊下で倒れており、施療院で見た光景と全く同じものが眼前に広がっていた。

 さっそく治療を始めようと一歩踏み出したとき、シルヴィ治療師長が私の肩を掴んで軽く後ろに引く。

「ここは俺とマルクが指揮を執る」

「若菜さんは陛下のところへ行ってください」

 シルヴィ治療師長とマルクの存在を頼もしく思いながら、私は頷いてシェイドとダガロフさんとともに王の居室に向かう。

 その途中で廊下の窓がいきなり割れた。そこから口元を布で覆い、短剣を構える黒装束の男たちが入ってくる。

「な、なに?」

「若菜、下がっていろ。おそらく、バルトン政務官の雇った刺客だ」

 驚いている私を背に庇い、剣を抜こうとするシェイドの前にアスナさんとローズさんが立つ。ふたりはこちらを振り返って、不敵に笑った。

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