異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「お父様!」

 悲鳴を上げるアシュリー姫が、国王陛下に駆け寄る。それを「近づいてはいけない!」とシェイドが引き留めるようとしたのだが、伸ばした手は彼女を捕まえられなかった。

 好機とばかりに下卑た笑みを口元にたたえたバルトン政務官はアシュリー姫の腕を掴んで引き寄せると、首元に剣をあてがう。

「使い道のある人質が自分から飛び込んできてくださって、助かりましたよ」

「話しなさいっ、私はこの国の王女ですよ!」

 腕を振り回し、足をバタつかせるアシュリー姫だったが、男性の力には叶わず逃げ出せないでいる。私たちは姫を人質に取られ、身動きが取れないでいた。

 一歩間違えれば、ミグナフタの王女の首が飛ぶ。そうなれば、月光十字軍やシェイドはこの国にいられなくなる。それどころか後ろ盾も得られず、王位奪還も叶わなくなる。

 ただならぬ緊張感が漂う中、シェイドはバルトン政務官を強く見据えて言う。

「彼女をどうするつもりだ」

「アシュリー姫には二ドルフ“国王陛下”に嫁いでいただき、エヴィテオールとミグナフタの確固たる繋がりの礎になってもらいます」

 それを耳にしたアシュリー姫の顔は真っ青になる。本人を目の前にして政治に利用するなどと軽々しく口にするなんて、バルトン政務官にとって人は道具でしかないのだ。

 バルトン政務官は思惑が露見したことで開き直ったのか、饒舌になる。

「シェイド王子がこの厄病騒ぎの主犯だと国王陛下に進言したのですが、陛下は長年政務官として仕えた私よりも王子、あなたを信じるとおっしゃりましてね。毒を盛らせていただいたんですよ」

 ということは、国王陛下はペストには感染していないということだ。ただ、いまだ眠り続けているとなると継続的に毒を投与されている可能性がある。国王陛下やアシュリー姫、月光十字軍の未来のためにも助けなければと鞄の取っ手を強く握りしめる。

 平然と国王に手をかけようとしたバルトン政務官をシェイドは冷ややかな目で睨みつけ、肌を刺すような殺気を纏った。

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