異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「それで国王の意思とは関係なく俺を疫病騒ぎの主犯だと他の政務官や兵に吹聴し、捕らえようとしたわけか。うちの治療師をエグドラの町に送ったのはなぜだ」
「ニドルフ王子はそちらの治療師のお嬢さんの腕を警戒しているようでしてね。攫えないなら殺すように言われていたのですよ」
バルトン政務官の視線が私に向けられ、まるでナイフを突きつけられたかのように体が硬直する。膝が笑いそうになっていると、ふいに視界が黒一色に染まった。
目の前にあるのは黒の軍服、シェイドの広い背中だ。彼はバルトン政務官を見据えたままだったが、私に大丈夫だと言ってくれているのが伝わってくる。そこでようやく、体から余分な力が抜けた。
「ニドルフ王子が若菜さんの知識と技術を脅威に感じているのは本当です」
口を開いたのはシェイドと一緒に、私を守るように隣に立っていたダガロフさんだった。
「今回の疫病騒ぎを食い止めたことで、ますます狙われる立場になったと思います」
王宮騎士団に所属していたダガロフさんはミグナフタの国境沿いの戦争の際に、ニドルフ王子に命令されて私を攫おうとしたことがある。なので、彼がそう言うのであれば事実なのだろう。
「そこの元騎士団長殿の言う通りですよ。シルヴィ治療師長に関しては月光十字軍の治療師を育てるだけでなく、そこのお嬢さんを王宮治療師長に任命した。目ざわりで思い通りにならない人間は一掃しようと思いましてね。あの町に感染症患者が着用していた毛皮を安値で売り込み、疫病は見事に蔓延。あなた方は患者を救うために殉職、華のある結末とは思いませんか」
漫談でもするように悪びれもせず真実を語るバルトン政務官に狂気さえ感じる。人数では圧倒的にこちらが優勢なのに、バルトン政務官は人質がいるからか余裕を見せていた。
「話なんていいから、離しなさいよっ」
すると剣を突きつけられている状態に耐え切れなくなったのか、アシュリー姫が暴れる。動くたびに刃が喉に当たってしまいそうで、全身の血の気が失せた私は思わず叫んだ
「アシュリー姫、動いてはダメよ!」
「うるさいっ、もう嫌っ」
泣きながら喚くアシュリー姫に、バルトン政務官の顔色が変わる。蔑むような目で姫を見下ろし、剣柄を握る手に力がこもるのを目視出来たとき――。
「ニドルフ王子はそちらの治療師のお嬢さんの腕を警戒しているようでしてね。攫えないなら殺すように言われていたのですよ」
バルトン政務官の視線が私に向けられ、まるでナイフを突きつけられたかのように体が硬直する。膝が笑いそうになっていると、ふいに視界が黒一色に染まった。
目の前にあるのは黒の軍服、シェイドの広い背中だ。彼はバルトン政務官を見据えたままだったが、私に大丈夫だと言ってくれているのが伝わってくる。そこでようやく、体から余分な力が抜けた。
「ニドルフ王子が若菜さんの知識と技術を脅威に感じているのは本当です」
口を開いたのはシェイドと一緒に、私を守るように隣に立っていたダガロフさんだった。
「今回の疫病騒ぎを食い止めたことで、ますます狙われる立場になったと思います」
王宮騎士団に所属していたダガロフさんはミグナフタの国境沿いの戦争の際に、ニドルフ王子に命令されて私を攫おうとしたことがある。なので、彼がそう言うのであれば事実なのだろう。
「そこの元騎士団長殿の言う通りですよ。シルヴィ治療師長に関しては月光十字軍の治療師を育てるだけでなく、そこのお嬢さんを王宮治療師長に任命した。目ざわりで思い通りにならない人間は一掃しようと思いましてね。あの町に感染症患者が着用していた毛皮を安値で売り込み、疫病は見事に蔓延。あなた方は患者を救うために殉職、華のある結末とは思いませんか」
漫談でもするように悪びれもせず真実を語るバルトン政務官に狂気さえ感じる。人数では圧倒的にこちらが優勢なのに、バルトン政務官は人質がいるからか余裕を見せていた。
「話なんていいから、離しなさいよっ」
すると剣を突きつけられている状態に耐え切れなくなったのか、アシュリー姫が暴れる。動くたびに刃が喉に当たってしまいそうで、全身の血の気が失せた私は思わず叫んだ
「アシュリー姫、動いてはダメよ!」
「うるさいっ、もう嫌っ」
泣きながら喚くアシュリー姫に、バルトン政務官の顔色が変わる。蔑むような目で姫を見下ろし、剣柄を握る手に力がこもるのを目視出来たとき――。