異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「辛いときにすまない。この腕の中で思う存分に泣かせてやりたいのだが、今はロイ国王を救ってくれ」
狂おしいほどの憎しみの海に溺れそうになったとき、彼の言葉で目が覚める。私にはやるべきことがあるのだとシェイドが思い出させてくれたのだ。
私は自分を包む温もりを記憶に刻み、そっと彼の胸を押して離れる。
「……死なせないわ。アシュリー姫や残された家族が悲しまないためにも、シェイドの未来を守るためにも」
どんな場面でも凛然としているシェイドのように、私も背筋を伸ばして宣言する。そんな私を彼は意表をつかれたという顔でじっと見つめてきた。
「あなたの強さには惚れ惚れする。決して倒れぬ野花のようだ」
いつもこの人は大げさに褒めるな、と苦笑いしているとシェイドに指を絡めるように手を握られる。
「俺は国王が不在になったミグナフタの均衡を正すため、政務官への事情説明と治療師の支援に徹しよう」
「私はこの手に持ちうる力を全て使って、国王陛下わ助けるわ」
相対して誓い合うように宣言する。繋いだ手に一瞬力がこもると、どちらともなく離して自らの成すべきことをした。
国王陛下の毒は数日に渡って食事に混ぜられていたことが判明した。体内から毒素を排出させるため、抗酸化作用のあるヨモギを乾燥させたものをお茶にして飲ませると数日で目覚めることができた。
今は静養がなによりの薬なのだが、事の一端はバルトン政務官の思惑に気づけなかった自分が招いたものでもあるからと部屋でも仕事をされている。
場内に蔓延していたものはペストではなく、発熱や下痢や嘔吐などの症状が出る感染性胃腸炎。皆の発症がほぼ同時だったため、バルトン政務官に腐った肉類や卵を食べさせられたがために起きた食中毒だと考えられた。これに関しては特別な治療はなく、下痢や嘔吐で脱水にならないよう水分補給を促したり、栄養補給をするなどして今ではほぼ全員が完治している。
私も王宮治療師としての仕事を始め、城を出る前の日常に戻ってきた。
シェイドは今、国王陛下とともに此度の厄病騒ぎが終息した祝いに大広間で宴を開いている。騎士や兵、政務官や治療師も参加できる内々の舞踏会のようなものだ。治療館の皆は仕事中も素敵な令嬢を見つけて、逆に玉の輿に乗るのだと浮き足立っていた。
参加するつもりがなかった私は空が橙に染まる頃に仕事を終えて治療館を出た。その瞬間にメイドに拉致され、見知らぬ部屋で治療師の制服を脱がされるとコルセットにパニエと呼ばれる女性服の形を構築する下着をつけさせられた。「庶民を着飾るなんて、やりがいがあります」とメイドたちは生き生きしながら、私にカルトゥーシュという装飾モチーフが目を引くワインレッドのドレスを着せる。
狂おしいほどの憎しみの海に溺れそうになったとき、彼の言葉で目が覚める。私にはやるべきことがあるのだとシェイドが思い出させてくれたのだ。
私は自分を包む温もりを記憶に刻み、そっと彼の胸を押して離れる。
「……死なせないわ。アシュリー姫や残された家族が悲しまないためにも、シェイドの未来を守るためにも」
どんな場面でも凛然としているシェイドのように、私も背筋を伸ばして宣言する。そんな私を彼は意表をつかれたという顔でじっと見つめてきた。
「あなたの強さには惚れ惚れする。決して倒れぬ野花のようだ」
いつもこの人は大げさに褒めるな、と苦笑いしているとシェイドに指を絡めるように手を握られる。
「俺は国王が不在になったミグナフタの均衡を正すため、政務官への事情説明と治療師の支援に徹しよう」
「私はこの手に持ちうる力を全て使って、国王陛下わ助けるわ」
相対して誓い合うように宣言する。繋いだ手に一瞬力がこもると、どちらともなく離して自らの成すべきことをした。
国王陛下の毒は数日に渡って食事に混ぜられていたことが判明した。体内から毒素を排出させるため、抗酸化作用のあるヨモギを乾燥させたものをお茶にして飲ませると数日で目覚めることができた。
今は静養がなによりの薬なのだが、事の一端はバルトン政務官の思惑に気づけなかった自分が招いたものでもあるからと部屋でも仕事をされている。
場内に蔓延していたものはペストではなく、発熱や下痢や嘔吐などの症状が出る感染性胃腸炎。皆の発症がほぼ同時だったため、バルトン政務官に腐った肉類や卵を食べさせられたがために起きた食中毒だと考えられた。これに関しては特別な治療はなく、下痢や嘔吐で脱水にならないよう水分補給を促したり、栄養補給をするなどして今ではほぼ全員が完治している。
私も王宮治療師としての仕事を始め、城を出る前の日常に戻ってきた。
シェイドは今、国王陛下とともに此度の厄病騒ぎが終息した祝いに大広間で宴を開いている。騎士や兵、政務官や治療師も参加できる内々の舞踏会のようなものだ。治療館の皆は仕事中も素敵な令嬢を見つけて、逆に玉の輿に乗るのだと浮き足立っていた。
参加するつもりがなかった私は空が橙に染まる頃に仕事を終えて治療館を出た。その瞬間にメイドに拉致され、見知らぬ部屋で治療師の制服を脱がされるとコルセットにパニエと呼ばれる女性服の形を構築する下着をつけさせられた。「庶民を着飾るなんて、やりがいがあります」とメイドたちは生き生きしながら、私にカルトゥーシュという装飾モチーフが目を引くワインレッドのドレスを着せる。