異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「マルク」
急かすように名前を呼べばマルクは「はいっ」と大きく頷いて、私を幕舎の一番奥の壁に寄りかかっている男性の前に案内する。
私と同い年くらいだろうか、深緑の頭髪をした彼は金の飾り緒のついた白の軍服と右肩や両前腕に銀の鎧を身に着けている。肩の鎧からは髪色と同じマントのような布が垂れており、服装から他の兵とは違って身分の高さが窺えた。
「しっかりしてください、私の声が聞こえていますか?」
固く目を閉じている彼のそばに片膝をつくと、中央で分けられたその前髪の奥でまつげが震える。ゆっくりと瞼が持ち上がると、蠱惑的で吸い込まれそうなアメジストの瞳が現れた。
「あぁ、悪いね。五日間まともに休めてなかったから、寝落ちしてたみたいだ。って、あれ? 治療班にこんないい女いたっけ?」
「……私は若菜です。どこか痛みますか?」
こんな状況だというのに、彼の軽さに拍子抜けしそうになる。見たところ血色はよさそうだが、額に玉のような汗が浮かんでいるのが気になった。
「俺はアスナ・グランノールだ。馬から転落したときに、右の足首を捻っちゃってね。最初は我慢できる痛みだったんだけど、今は足を地面につけるのも厳しい」
私は「失礼します」と断りを入れて彼の靴を脱がす。
足関節の腫脹が強いわね。
くるぶしの外側を触診すると、アスナさんは「ぐっ……」と声にならない悲鳴を上げた。
「この足でしばらく歩けていたのなら、骨折ではないわ。折れていたら少し動いただけで、激痛が走るの。触った感じ、骨の変形もなさそうだった。腫れも次第に引いていくわ」
簡単に病状を説明して、私はマルクのほうを振り返る。
「包帯と、なにか台になるようなものを持ってきてくれる?」
「ほう、たい……ですか? すみません、固定用の布は使い切ってしまってないんです。台なら物資が入っていた箱があります!」
マルクが箱に駆け寄ると、他の治療師がそれを一緒に運ぶ。私はアスナさんを横たわらせて、箱を足元に置いてもらった。
さっき包帯って言ったら変な顔をされたわ。もしかして、この世界に包帯はないの? そうなると、この世界の医療はかなり時代遅れなのかもしれない。
「布はあなたのマントを借りるわね」
アスナさんの鎧から出ていた布を千切り、足首に巻きつけていく。それをマルクやほかの治療師は物珍しそうに見ていた。
急かすように名前を呼べばマルクは「はいっ」と大きく頷いて、私を幕舎の一番奥の壁に寄りかかっている男性の前に案内する。
私と同い年くらいだろうか、深緑の頭髪をした彼は金の飾り緒のついた白の軍服と右肩や両前腕に銀の鎧を身に着けている。肩の鎧からは髪色と同じマントのような布が垂れており、服装から他の兵とは違って身分の高さが窺えた。
「しっかりしてください、私の声が聞こえていますか?」
固く目を閉じている彼のそばに片膝をつくと、中央で分けられたその前髪の奥でまつげが震える。ゆっくりと瞼が持ち上がると、蠱惑的で吸い込まれそうなアメジストの瞳が現れた。
「あぁ、悪いね。五日間まともに休めてなかったから、寝落ちしてたみたいだ。って、あれ? 治療班にこんないい女いたっけ?」
「……私は若菜です。どこか痛みますか?」
こんな状況だというのに、彼の軽さに拍子抜けしそうになる。見たところ血色はよさそうだが、額に玉のような汗が浮かんでいるのが気になった。
「俺はアスナ・グランノールだ。馬から転落したときに、右の足首を捻っちゃってね。最初は我慢できる痛みだったんだけど、今は足を地面につけるのも厳しい」
私は「失礼します」と断りを入れて彼の靴を脱がす。
足関節の腫脹が強いわね。
くるぶしの外側を触診すると、アスナさんは「ぐっ……」と声にならない悲鳴を上げた。
「この足でしばらく歩けていたのなら、骨折ではないわ。折れていたら少し動いただけで、激痛が走るの。触った感じ、骨の変形もなさそうだった。腫れも次第に引いていくわ」
簡単に病状を説明して、私はマルクのほうを振り返る。
「包帯と、なにか台になるようなものを持ってきてくれる?」
「ほう、たい……ですか? すみません、固定用の布は使い切ってしまってないんです。台なら物資が入っていた箱があります!」
マルクが箱に駆け寄ると、他の治療師がそれを一緒に運ぶ。私はアスナさんを横たわらせて、箱を足元に置いてもらった。
さっき包帯って言ったら変な顔をされたわ。もしかして、この世界に包帯はないの? そうなると、この世界の医療はかなり時代遅れなのかもしれない。
「布はあなたのマントを借りるわね」
アスナさんの鎧から出ていた布を千切り、足首に巻きつけていく。それをマルクやほかの治療師は物珍しそうに見ていた。