異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
七話 新たな選択肢
疫病騒ぎから三週間、ミグナフタ国に滞在すること四ヶ月が経った。砦での籠城戦、エグドラの町での疫病騒ぎ。色々あったがようやくエヴィテオールに攻め入る準備が整い、王位奪還のために私たちは始動する。
明朝に、この城を発つことになったのだ。
「いよいよ明日か、お前が抜けると俺の仕事が増えるじゃねーか」
治療館で荷物の整理をしていると、私が寝泊まりしている部屋の戸口に手をついたシルヴィ治療師長が声をかけてくる。
「私がいなくても、この城の王宮治療師たちは十分即戦力になりますよ」
元々荷物なんてなにひとつなかったはずなのに、この国に来て衣服や薬学の書物など私物が増えた。この場所を帰る場所だと思えるくらい、ミグナフタの生活に慣れていたのだ。
そう思うとなんだか感慨深くて、鞄に詰めようとしていた書物の表紙を手で撫でる。
「シルヴィ治療師長の講義を夜遅くまで受けていた頃が懐かしい」
「あれは半ば強引に、俺に講義させてたけどな」
「そんなこと言いながら、なんだかんだ最後まで面倒見てくれましたよね。本当に感謝しているんです」
口は悪いが、性根は面倒見がいいのだ。それに気づいてからはシルヴィ治療師長に対して身構えることはなくなった。治療に関しては誰よりも頼りにしている存在だ。
「できればもう少し、シルヴィ治療師長の元で働きたかったです」
「なら……いればいいだろ。マルクも他の治療師たちも、ずっと治療館に」
彼の声が低く慎重になる。いつものぶっきらぼうな口調ではなかったので、本気でそう言ってくれているのだとわかった。それを嬉しく思いながら、私は首を横に振る。
「私はシェイド王子と月光十字軍の皆を守りたい。その行く先を見届けたいんです」
その答えを聞いたシルヴィ治療師長の顔に明らかな落胆が浮かび、私の胸も締めつけられた。それでも、これが私の決めた道だから後悔はない。
「あえて茨の道を行くお前を愚かだと思う反面、勇ましくて尊敬してる自分がいる。本当はここでもっとこき使いたかったが、引き留めるのは骨が折れそうだ」
頭をガシガシと乱暴に掻いて、振り切るように私の前までシルヴィ治療師長が歩いてくる。向き合って見つめあうと、シルヴィ治療師長は首からかけていた小瓶を外した。
明朝に、この城を発つことになったのだ。
「いよいよ明日か、お前が抜けると俺の仕事が増えるじゃねーか」
治療館で荷物の整理をしていると、私が寝泊まりしている部屋の戸口に手をついたシルヴィ治療師長が声をかけてくる。
「私がいなくても、この城の王宮治療師たちは十分即戦力になりますよ」
元々荷物なんてなにひとつなかったはずなのに、この国に来て衣服や薬学の書物など私物が増えた。この場所を帰る場所だと思えるくらい、ミグナフタの生活に慣れていたのだ。
そう思うとなんだか感慨深くて、鞄に詰めようとしていた書物の表紙を手で撫でる。
「シルヴィ治療師長の講義を夜遅くまで受けていた頃が懐かしい」
「あれは半ば強引に、俺に講義させてたけどな」
「そんなこと言いながら、なんだかんだ最後まで面倒見てくれましたよね。本当に感謝しているんです」
口は悪いが、性根は面倒見がいいのだ。それに気づいてからはシルヴィ治療師長に対して身構えることはなくなった。治療に関しては誰よりも頼りにしている存在だ。
「できればもう少し、シルヴィ治療師長の元で働きたかったです」
「なら……いればいいだろ。マルクも他の治療師たちも、ずっと治療館に」
彼の声が低く慎重になる。いつものぶっきらぼうな口調ではなかったので、本気でそう言ってくれているのだとわかった。それを嬉しく思いながら、私は首を横に振る。
「私はシェイド王子と月光十字軍の皆を守りたい。その行く先を見届けたいんです」
その答えを聞いたシルヴィ治療師長の顔に明らかな落胆が浮かび、私の胸も締めつけられた。それでも、これが私の決めた道だから後悔はない。
「あえて茨の道を行くお前を愚かだと思う反面、勇ましくて尊敬してる自分がいる。本当はここでもっとこき使いたかったが、引き留めるのは骨が折れそうだ」
頭をガシガシと乱暴に掻いて、振り切るように私の前までシルヴィ治療師長が歩いてくる。向き合って見つめあうと、シルヴィ治療師長は首からかけていた小瓶を外した。