異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「もう、勘弁してください」

 騎士相手に失礼だとは重々承知しているけれど、私は全身倦怠感に今にも膝から崩れ落ちそうになっていた。

 しばらくドレスは見たくないと思うほど、何着着たのか記憶にない。今は舞踏会の日に着たものより軽く、体のラインがわかるすっきりとしたロングドレスだ。

「うんうん、さすがはローズ。白いドレスは若菜ちゃんの黒髪が映えて素敵だし、タイトなシルエットだからエレガントだ」

 値踏みするようにアスナさんに見られ、落ち着かなくなる。アスナさんは褒めてくれるけれど、どんなに着飾っても私が庶民であることには変わりない。服の美しさに霞んでしまうのだろうと俯いて視線を彷徨わせていたら、ローズさんに背中をパシッと叩かれた。

「しゃんとしなさいよ」

「ご、ごめんなさい。なんだか、気後れしてしまって」

「そんなんじゃ、アシュリー姫に王子を取られるわよ」

 とられるもなにもシェイドは私のものではない……と、そこまで考えてハッとする。ローズさんは“誰に”とは言っていない。なのに勝手にシェイドのことを連想した自分が恥ずかしくて顔が熱くなった。

「それで、私はどうしてここに連れて来られたんでしょうか」

 居たたまれなくなって話題を変えるために最初にした問いを繰り返す私に、アスナさんは悪戯な笑みを浮かべる。

「ミグナフタの国を出たら、しばらくはお洒落なんてできないでしょ。だからさ、可愛いところを王子に見せてやりなよ」

 じゃあ、今日は私のために洋服屋さんに連れてきてくれたのね。

 ふたりの気遣いが心に染みて胸が温かくなるのを感じていたとき、ふとどうして私がシェイドを想っていることを彼らが知っているのかと疑問がわく。

 その戸惑いが表情に表れていたらしく、ローズさんが呆れたように私を見る。

「あれだけ王子があんたのことを口説いてる場面に遭遇すれば、誰でも気づくにきまってるじゃない。本当に鈍ちんね」

 毒を吐きながらもローズさんは私にサファイアの首飾りをかける。胸元に感じる重たい感触に視線を落とすと、シェイドと甘いひと時を過ごした薔薇園の夜を思い出した。

「これ、舞踏会でもつけてた宝石なんです」 

「自分の髪色と同じサファイアを身に着けさせるなんて、王子ってば独占欲が強いよね」

 アスナさんの言葉に耳を疑う。

 あれだけ思いを告げられれば好かれている自覚はさすがにあるけれど、彼はいつも余裕があって嫉妬とは無縁のように思える。

 まさか、と半信半疑で聞いていたらローズさんに額を指で弾かれた。

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