異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「八つ当たってすまない。本当に許せないのは、お前に守られてばかりの自分になんだ。呼びかけても目を開けなかったとき、生きた心地がしなかった。俺はお前を失ったら、きっと廃人のようになる」

 表情を陰らせるシェイドを見ていると胸が締めつけられる。私は堪らなくなって上半身を起こした。

「いっ……」

 腹筋に力が入ったからか、激痛が走る。脇腹をおさえて身を屈ませた私の背をシェイドが支えた。

「まだ起き上がるな。脇腹に短剣が刺さってたんだぞ。マルクが適切な手当をしたから助かったものの、刃先が数センチ奥に入っていれば臓器が損傷していた。まだ安静にしていたほうがいい」

 語気を強めるシェイドは私の肩を押して体を横たえようとする。だが、私は構わず彼の首に両腕を回して抱きしめた。

「なに、を……」

 言葉を詰まらせる彼に私はさらに強くしがみつく。

「死ぬなってあなたの声が聞こえたとき、すごく胸が痛かった。だから目が覚めたら、こうして抱きしめて安心させてあげたいって思ってたの」 

 そのためなら傷の痛みなんて二の次だ。どうやら私は彼が心を痛めているほうがずっと参るらしい。

「まったく、守りたい女性に守られてるなんて俺の立つ瀬がないだろう」

 シェイドの腕が傷を労わりながら優しく背中に触れる。それに応えるべく、私はかじりつくように必死に彼の首に腕を回した。

「一緒に戦って守り合えばいいじゃない」

「強いな、若菜は。本当は弱音を言わせてやりたいんだが、お前は男の腕の中で守られているだけの女性じゃないからな」

 私がじっとしている性格でないことはシェイドも十分理解しているのだろう。でも危険に巻き込みたくないという本心も見え隠れしている。幾重の意味が込められている苦笑交じりの彼の言葉に、私の胸にも名前のつけられない思いたちが込み上げる。

 心配をかけたくないから彼の望むとおりにしてあげたい気持ちと、手の届かないところで彼を失いたくないから自らも戦いたい気持ち。それは常に心の中でせめぎ合っていて、なにが正解かはわからないけれど、きっとどちらも私にとって大事なものだ。

「無茶するのは諦めてちょうだい。でも、ピンチになったらあなたが守って」

 男心というのは難しい。行き先が戦場であっても隣を歩いていきたい私の感情とは反対に、彼は危険など少しもないような場所に閉じ込めておこうとする。その要求は呑めないけれど、頼りにしていることはきちんと伝えなければ拗ねるから。

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