異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
二話 犠牲の上に生かされた者
村に到着したのは、予定より二日ほど遅い九日後の昼だった。
旅立ちの夜、幕舎前には焚き火をして人がいるかのようにカモフラージュをし、難なくその場を離れることができた。
だが、途中で雨に降られた山道では体力を根こそぎ奪われ、病状が悪化する者も少なくなかった。道すがら薬草を採取して傷口に塗り、替えのない布を葉から滴る心もとない水で洗い使いまわす。そんな不衛生さも祟って、村に着く頃には破傷風を発症している者が多くいた。
「ごめん、休める場所は確保できなかった」
アスナさんがひどく落胆した表情で、村の入り口で待っていた私たちのところへ戻ってくる。
「確保できなかったって、どういうことよ。説明をしてちょうだい」
ローズさんは腕組をして眉間にしわを寄せたが、その隣に立っているシェイド様は予想をしていたかのように驚いた様子はなかった。
「敗戦軍を助けたりしたら自分たちが殺される、とでも言われて追い返されたか?」
困ったように笑うシェイド様に、アスナさんは片手を挙げて「ご名答」と答える。
ここまで来て休む場所がないと知った兵や治療師たちの空気は当然だが重くなる。
私だって、とにかく村につけばゆっくり休めると思って気力を保ってきた。それが叶わないとなると、ここまで痛みに耐えて歩いてきた彼らの心は折れてしまう。そうなれば、生きる活力さえ失ってしまうかもしれない。
「私、もう一度お願いをしてみようと思います」
気づいたら、そう口にしていた。
ダメもとではあるが、村の人たちにもう一度お願いをしてみよう。一度断られたからってあきらめたら、永遠に失われてしまうかもしれない命がここにはあるから。
「ならば、俺も行こう」
「シェイド様……でも、王子様がひとりで行動してもいいの? 私じゃ、盾になるくらいしかできませんけど」
この村にニドルフ王子の息がかかった者が潜んでいる可能性もあるのだ。それを懸念してアスナさんが村人への交渉役に選ばれたというのに、危険ではないだろうか。
本気で心配をしていたのだが、それを聞いていたアスナさんはぶっと吹き出した。
「それはないぜ~、若菜ちゃん。そこの王子様は俺ら騎士よりも腕が立つよ」
「そんな必要ないのに盾になりたいなんて、物好きよね」
ローズさんまでもが、からかうように私の額を指先で突く。