異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「ごめんね、お腹が空いてないわけじゃないんだ。でも、気分的に……ね。次はちゃんと食べるから、今回は大目に見てよ」

 肩をすくめる湊くんの声が、やけに大きく聞こえる。なぜだろうと思って病室を見渡したとき、ハッとした。

 私、どうして今まで気づかなかったのかしら。

 湊くんは誤魔化すように笑って、この話題を早々に終わらせようとしている。そんな彼の本心がようやく分かった私は、さっそく提案する。

「明日は一緒にお昼ご飯を食べましょうか」

「……え?」

「今日は食堂で給食を頼んじゃってるの。でも明日はお弁当を作ってくるから、ふたりで食べましょう」

「いや、急にどうしたの?」

「食事は誰かと食べなきゃ、おいしくないわよね」

 話す相手もいない病室で食事を摂るなんて、お腹は満たされても心は満たされない。私も病院の寮でひとり暮らしをしているからわかる。味付けがおいしいだとか、そういう些細な会話が恋しくて、ここに誰かがいてくれればと何度思ったかわからない。

「なんで……」

 震える声で呟いた湊くんの肩を引き寄せて、その背中をあやすようにトントンと軽く叩く。それにまた、明るい少年を演じすぎて甘え下手になってしまった彼の身体はビクリと跳ねた。

「なんで、若菜お姉さんにはわかっちゃうのかなぁ」

「湊くんのこと、ちゃんと見てるからよ。だから、覚えておいてほしいの。辛いことがあったとき、あなたには頼れる人がいるってこと」

 頭を撫でてあげると、湊くんは目に涙をためながら首を縦に振る。

「うん、覚えておく」

「よろしい」

「ははっ、若菜お姉さんってお母さんみたい。いくつなんだっけ?」

「三十路よ、悲しいことにね」

 急に笑顔になった湊くんに、子供の心はコロコロ変わるなと苦笑いする。でも、彼が元気になってくれたことが純粋にうれしかった。

 仕事中ではあったが、リーダー業務は主に指示出しがメインなので、私はできるだけ時間を作って湊くんとたくさん話をした。

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