異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
三話 王宮治療師の受難

 ミグナフタの国境を越えてから、三日目のこと。シェイド様は残してきた兵の帰還を信じており、一週間はここで待つと宣言して私たちは要塞に身を置いている。

 負傷兵のを見舞っていた私は、同じく宿舎に顔を出しに来たシェイド様と談笑していた。そこへ慌てた様子の月光十字軍のひとりが、部屋に飛び込んでくる。

「きっ、帰還しました! アスナ騎士隊長率いる第二部隊、ローズ騎士隊長率いる第三部隊が玄関広間にて待機しています!」

 その知らせに、宿舎内にどっと歓声がわく。待ち望んだ仲間の帰還に目に涙を浮かべている者までいた。

「……すぐに向かう」

 シェイド様も喜びに胸が詰まっているのか、少しの間の後に答えた。

 私はシェイド様や動ける者と共に玄関広間に向かう。廊下を歩きながら、いまだに信じられない思いだった。期待と不安が胸の底で蠕動しているのを感じながら、広間に続く大階段を下りると――。

「やっほー王子、アスナさんと愉快な仲間たちがが無事に帰還しましたよ」

 ローズさんに肩を支えられながら、ひらひらと呑気に手を振ってくるアスナさんの姿があった。

「この馬鹿、ボロ雑巾状態で合流してきたから使い物にならないし、捨て置こうかとも思ったんだけどね。慈悲深いローズ様が拾ってきてあげたわよ。でも今、拾ってきたことを心底後悔しているところ」

 ペラペラと状況報告をするローズさんの隣で「人でなし!」とアスナさんが文句をたれている。そんなふたりの後ろには全身に傷を負いながらも、笑みを浮かべた兵たちの姿があった。

 彼らの顔を見渡し、シェイド様は一歩前に出るとひと言。

「よく、無事に戻った」

 それだけ告げて階段を降りていくと、アスナさんやローズさん、他の兵たちと抱擁を交わして労った。

 その光景を眺めながら、改めて彼らが国を取り戻す日が早く来ることを願う。そのために自分にできることとはなんなのかを模索していた。


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