異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「こんなところで寝ていたら、風邪を引きますよ」

「……なんだよ、笑いに来たのか」

 シルヴィ治療師長はさほど驚いた様子もなく、完全に意気消沈した様子でそう言った。私はどうしたものかと思考を巡らせ、ベンチに寄りかかるようにして芝生の上に座る。

「そんなわけないじゃないですか。シルヴィ治療師長に認めてほしかったんです。女でも役に立てるんだってこと」

 空を見上げると、燃えるような夕日が空を戦火の色に染めている。生まれて一度も経験したことのなかった戦場。そこで救えなかった命のためにも、私は王宮治療師になりたいのだ。

「私は、私を生かそうと命を賭けてくれた人たちのためにも、立ち止まるわけにはいかないんです」

「お前は……そうか、戦場を経験したんだったな。女を戦場に駆り出すなんて、お前の国はどうかしてる」

 無視されると思っていたので、返事があったことに口元がほころぶ。決して和やかとまではいかないけれど、初対面のときよりは空気が穏やかだった。

「いえ、私はエヴィテオール国の人間じゃないんです。戦場にいたところをシェイド様に拾われて、月光十字軍と行動を共にしていました」

「なら、立場の危ういエヴィテオールの王子と行動を共にしたお前の神経を疑うな。そのときは一緒にいたほうが安全だったんだろうが、途中から別行動をとろうとは思わなかったのか?」

 初めて質問されて、少し距離が近づいたかもしれないと思った私はシルヴィ治療師長を振り返る。すると彼はうつ伏せになって手すりに肘をつき、こちらを見ていた。 

「思いませんよ、私の居場所はシェイド様と月光十字軍の皆ですから。あの人たちを守るためなら、一緒に戦います」

 帰り道を見つけるその日までと思っていたのだけれど、今はシェイド様が王位を継ぐその瞬間までそばで支えたいと思う。私はきっと、シェイド様が王になるところを見てみたいのだ。

「お前、心臓に毛が生えたみたいな女だな」

「シルヴィ治療師長、それは女性に対して失礼ですよ」

「俺はお前を女として見ない。そんで明日から、俺と対等の治療師長として働け。馬車馬みてぇにこき使ってやるから覚悟しろ」

 頭に乱暴に手が乗せられ、私は目を瞬かせる。

< 57 / 176 >

この作品をシェア

pagetop