異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「それは、まずいんじゃないかしら。他の者に示しがつかないでしょう」
「ふたりきりのときだけでも構わないから、俺が王子ではなくひとりのシェイドという男に戻るきっかけをくれ。あなたが俺を呼び捨てにしたときは、王子の鎧を脱ぐことにする」
しかし、シェイド様は頑なに呼び方にこだわった。そこまで言われたら折れるしかなく、私はふたりきりのとき限定ということで手を打つ。
「なら、シェイドと呼ぶわね。あと、敬語もやめる」
「ああ、あなたにそう呼ばれると肩の荷が軽くなる気がする。身軽になったついでに、もうひとついいだろうか」
今度はなんだろうと身構えながら、彼になんでも隠さずに言えといったのは私なので責任をとってとことん聞こうと心を決める。
「ええ、どうぞ」
そう答えるとシェイドの瞳が看守のごとく鋭くなり、詰め寄られた。心当たりはないが、自分が大罪人になったような心持ちでゴクリと喉を鳴らす。
「若菜とシルヴィ治療師長は、夜な夜な密会をしているというのは本当か? そのような噂を耳にして、俺としては気が気じゃないんだが」
「……密会?」
聞き捨てならない単語が聞こえてきて、ぎょっとする。誰だ、そんな嘘っぱちを吹聴した不届き者は。
シェイドは逢引に近い意味で言っているのだろうけれど、私とシルヴィ治療師長の誹謗、中傷、罵倒、なんでもありな討論を聞いていて、ただならぬ関係だと思えることが素晴らしい。もちろん褒めてはいない、嫌みである。
夜な夜なとは、私が無理やり頼み込んで引き受けてもらった薬学の講義のことだろう。
残念ながら、噂を流した人間と目の前のシェイドの考えているような甘い空気は私たちの間には一切ない。むしろ講義の最中に、お互いの治療観が食い違って険悪になることがほとんどだ。
「ふたりきりのときだけでも構わないから、俺が王子ではなくひとりのシェイドという男に戻るきっかけをくれ。あなたが俺を呼び捨てにしたときは、王子の鎧を脱ぐことにする」
しかし、シェイド様は頑なに呼び方にこだわった。そこまで言われたら折れるしかなく、私はふたりきりのとき限定ということで手を打つ。
「なら、シェイドと呼ぶわね。あと、敬語もやめる」
「ああ、あなたにそう呼ばれると肩の荷が軽くなる気がする。身軽になったついでに、もうひとついいだろうか」
今度はなんだろうと身構えながら、彼になんでも隠さずに言えといったのは私なので責任をとってとことん聞こうと心を決める。
「ええ、どうぞ」
そう答えるとシェイドの瞳が看守のごとく鋭くなり、詰め寄られた。心当たりはないが、自分が大罪人になったような心持ちでゴクリと喉を鳴らす。
「若菜とシルヴィ治療師長は、夜な夜な密会をしているというのは本当か? そのような噂を耳にして、俺としては気が気じゃないんだが」
「……密会?」
聞き捨てならない単語が聞こえてきて、ぎょっとする。誰だ、そんな嘘っぱちを吹聴した不届き者は。
シェイドは逢引に近い意味で言っているのだろうけれど、私とシルヴィ治療師長の誹謗、中傷、罵倒、なんでもありな討論を聞いていて、ただならぬ関係だと思えることが素晴らしい。もちろん褒めてはいない、嫌みである。
夜な夜なとは、私が無理やり頼み込んで引き受けてもらった薬学の講義のことだろう。
残念ながら、噂を流した人間と目の前のシェイドの考えているような甘い空気は私たちの間には一切ない。むしろ講義の最中に、お互いの治療観が食い違って険悪になることがほとんどだ。