異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
「本当だけれど、どちらかというと密会じゃなくて戦闘に近いわね」

 遠い目でそう答えれば、シェイドは案の定「は?」と気の抜けた声で首を傾げた。その反応は予想していたので、今度はきちんと説明する。

「私の生まれ育った国では薬草とあまり縁がなくて、この世界に来て治療に使うことも多かったから知識不足を感じてたの。それで無理言って、薬草学の講義を頼んだのよ」

「なるほど、よく面倒くさがりのシルヴィ治療師長が引き受けたな」

「私のお願いを断ることのほうが、労力を使うと思ったんじゃないかしら」

 半ば押しかけるような形でシルヴィ治療師長を仕事のあとも治療室に監禁したのだから、お願いなどと生ぬるいものではないかもしれない。

 振り返ってみると、やりすぎっだったかもしれないと反省をしていた私の頬に手が添えられる。そこで初めて、自分が彼に抱きしめられたままだったことを思い出した。

 顔を上げれば、琥珀の瞳の奥底に燃えるような熱が見えた気がして息を詰まらせた。そんな私に気づいているのかいないのか、そっと顎を摘んで持ち上げられる。

「シルヴィ治療師長とは王位争いが起こる前にも何度か顔を見合わせているが、本当に嫌なことは梃子でも動かない男だ。だから、あの男も若菜が気に入ったに違いない」

「シェイドまでそんなことを言って、絶対にありえないわ」

 断言してもいい。私とシルヴィ治療師長が恋仲にでもなったら、彼が私の飲み物に毒を盛るか、私が包丁を飛ばすかのどちらかだ。そんな血みどろカップルなんて、御免蒙る。

 きっぱり否定したというのにシェイドは納得していないのか、顔を顰めて不服そうだ。

「その生き生きをした顔は、シルヴィ治療師長がさせているのだろう? ならば、結果的に俺は負けたことになる」

「シェイド、これは生き生きではなくて苛立ちって言うのよ。それから、あなたはなにと戦っていたの?」

仮に私とシルヴィ治療師長が仲良くしていると、問題でもあるのだろうか。私と彼は別段仲が悪いわけではないが、お互いに仕事人間なところが似ていて衝突ばかりしてしまう。でも、次の日にそれは持ち込まないし、いつでも対等に言いたいことを言い合えるよき仲間だ。それ以上でも以下でもない。

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