むかつく後輩に脅されています。
「ど、どうしたのよ」
「あー、昨日エレベーターで足挟んだじゃないですか。思いの外重症だったみたいで、足がうまく動かなくて」

 相楽はあっけらかんと言った。

「今朝アパートの階段降りてたら、バランス崩しちゃって。そのまま階段落ちました」
「ごめんなさい」

 私は真っ青になった。まさか、そんな大ごとになるなんて。

「治療費を出すわ。いくら?」
「あー、いいですよ、そんなの」

 相楽はにこっ、と笑った。

「それより、腹減りません?」

 立ち上がろうとしたら相楽を、私は慌てて支えた。

「座ってて」
「大丈夫っすよ」
「いいから。何か買ってくるわ」

 私は相楽を座らせ、弁当を買いに向かった。ブースに入り、声をひそめて話す。

「全治どれくらいだって?」
「んー、三カ月ですかね。骨がくっつくまで時間かかるらしくて」

 相楽はサンドイッチを咀嚼する。いくら気に入らない後輩でも、傷ついた姿を見たら胸が痛む。それも、私のせいなのだ。

「ほんとにごめんなさい。私にできることなら、なんでもするわ」
「なんでも?」

 そのとき、相楽の瞳が輝いた気がした。

「な……なによ、その顔は」
「んー、いいこと思いついちゃって」

 相楽がキャスターを転がし、私に身を寄せた。私は反射的に身を引く。

「俺と付き合ってください」

 その言葉に、私は目を丸くした。

「な……なに言ってるのよ」
「嫌ですか?」
「私は送迎とか、そういうことを手伝う、って言ってるの」
「でも、俺んち近いし。ごはんとか作りに来てもらいたいです」
「それは、付き合わなくてもできるでしょう」

 じりじり後ずさっていたら、壁に背中がついた。相楽が上目遣いでこちらを見る。

「付き合ってなきゃできないこと、先輩としたいな」

 彼の手が私の手に触れたので、びくりとする。
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