幻獣サーカスの調教師
「さて、次にお見せするのは、当サーカス期待の新星。幻獣マンティコアことラッドと、幻獣使いのルルです!皆様拍手でお出迎えください!」
団長の声を呆然と聞きながらも、ルルはアコーディオンを持ってラッドを振り返る。
大勢の人々の前に引き出されるのは初めてだからか、ラッドはどこか落ち着きないように鼻をひくつかせていた。
「……おい、ボーッとしてないで、さっさと行け。役目だけは忘れるな」
少年に背中を押され、ルルは前のめりになるが、すぐに睨むように少年を見る。
そんなルルを、少年も睨み返した。
「早く出てこいよ!」
「何をしてんだ?こっちは金を払ってんだぞ?」
「申し訳ありません、少々お待ちを」
歓声の野次が飛び、団長は平謝りしながらルルを睨んだ。
「……死にたいなら死ねば?」
「嫌だよ。絶対嫌!」
少年の言葉に、怒鳴るように返すとルルはラッドを見る。
「行くよ!ラッド!」
『ウォン』
何がなんでも成功させてみせる。死ななくてすむように。
ルルは精一杯の笑顔を張り付けて、ラッドと共に舞台へと上がる。
「ラッド、用意!」
ルルの声に、用意された火の輪の前に移動するラッド。
「ゴー!」
合図と共に走り出し、ラッドは火の輪をくぐり抜けた。
その光景に、人々は拍手を送る。
そして、次はルルがアコーディオンを演奏し、ラッドは音楽に合わせてトランポリンで高く舞い上がった。
くるっと宙返りをし、地面へと着地すると、またまた人々は歓声を上げ拍手を送る。
「まぁまぁ!まるでライオンや虎みたいね」
「いやいや。こいつぁ、もっと凄いだろ」
ルルは張り付けた笑みのまま演奏を続け、今度はラッドの背に乗る。
そして、今度は少し穏やかな曲を演奏すると、ラッドは翼を動かし高く飛び上がった。
「おいおい、龍みたいに飛べるのか?」
「まぁ、人を乗せて飛べるなんて素敵ね!あたくしも欲しいわ!」
ラッドの背中から立ち上がると、ルルは天井にぶら下がっているくす玉の紐を引っ張った。
すると、キラキラと金と銀の紙で出来た光が観客の元へと降り注ぎ、観客はため息に似た吐息を漏らす。
「まるで、夢の国のよう」
「ああ!いい暇潰しだった!」
ルルとラッドは舞台の上へと戻ると、観客へとお辞儀をし、手を振って観客の歓声を浴びた。
誰が見ても、成功と言えるほどに、ルルとラッドの演義は素晴らしかった。
だが、どんなに歓声を浴びても、拍手を送られても、ルルの心は冷えきっていた。
誰かを喜ばせるための演義ではなく、生き抜くための演義。
だから、楽しくなど無かった。ただ殺されないように、失敗しないように、それだけを考えていた。
ルルは確かに笑っていた。けれども、本当は泣いていた。
心の中で、声に出来ない悲鳴を上げて。
「いやー、素晴らしい演義でしたね。ルルとラッドはまるで親子のようだ。親子の愛ほど素晴らしいものはない」
用意された台詞を聞きながら、ルルはラッドを連れて舞台の隅へと引っ込んだ。
「次は、エルフの的当てです!」
次の演義が始まると、ルルは力が抜けたように地面へと膝を着いた。
『……』
ラッドが心配そうに顔を擦り寄せると、ルルは唇を噛み締めて、ラッドの顔に自分の顔を押し付けて泣いた。
声を上げること泣く、息を殺すように。
団長の声を呆然と聞きながらも、ルルはアコーディオンを持ってラッドを振り返る。
大勢の人々の前に引き出されるのは初めてだからか、ラッドはどこか落ち着きないように鼻をひくつかせていた。
「……おい、ボーッとしてないで、さっさと行け。役目だけは忘れるな」
少年に背中を押され、ルルは前のめりになるが、すぐに睨むように少年を見る。
そんなルルを、少年も睨み返した。
「早く出てこいよ!」
「何をしてんだ?こっちは金を払ってんだぞ?」
「申し訳ありません、少々お待ちを」
歓声の野次が飛び、団長は平謝りしながらルルを睨んだ。
「……死にたいなら死ねば?」
「嫌だよ。絶対嫌!」
少年の言葉に、怒鳴るように返すとルルはラッドを見る。
「行くよ!ラッド!」
『ウォン』
何がなんでも成功させてみせる。死ななくてすむように。
ルルは精一杯の笑顔を張り付けて、ラッドと共に舞台へと上がる。
「ラッド、用意!」
ルルの声に、用意された火の輪の前に移動するラッド。
「ゴー!」
合図と共に走り出し、ラッドは火の輪をくぐり抜けた。
その光景に、人々は拍手を送る。
そして、次はルルがアコーディオンを演奏し、ラッドは音楽に合わせてトランポリンで高く舞い上がった。
くるっと宙返りをし、地面へと着地すると、またまた人々は歓声を上げ拍手を送る。
「まぁまぁ!まるでライオンや虎みたいね」
「いやいや。こいつぁ、もっと凄いだろ」
ルルは張り付けた笑みのまま演奏を続け、今度はラッドの背に乗る。
そして、今度は少し穏やかな曲を演奏すると、ラッドは翼を動かし高く飛び上がった。
「おいおい、龍みたいに飛べるのか?」
「まぁ、人を乗せて飛べるなんて素敵ね!あたくしも欲しいわ!」
ラッドの背中から立ち上がると、ルルは天井にぶら下がっているくす玉の紐を引っ張った。
すると、キラキラと金と銀の紙で出来た光が観客の元へと降り注ぎ、観客はため息に似た吐息を漏らす。
「まるで、夢の国のよう」
「ああ!いい暇潰しだった!」
ルルとラッドは舞台の上へと戻ると、観客へとお辞儀をし、手を振って観客の歓声を浴びた。
誰が見ても、成功と言えるほどに、ルルとラッドの演義は素晴らしかった。
だが、どんなに歓声を浴びても、拍手を送られても、ルルの心は冷えきっていた。
誰かを喜ばせるための演義ではなく、生き抜くための演義。
だから、楽しくなど無かった。ただ殺されないように、失敗しないように、それだけを考えていた。
ルルは確かに笑っていた。けれども、本当は泣いていた。
心の中で、声に出来ない悲鳴を上げて。
「いやー、素晴らしい演義でしたね。ルルとラッドはまるで親子のようだ。親子の愛ほど素晴らしいものはない」
用意された台詞を聞きながら、ルルはラッドを連れて舞台の隅へと引っ込んだ。
「次は、エルフの的当てです!」
次の演義が始まると、ルルは力が抜けたように地面へと膝を着いた。
『……』
ラッドが心配そうに顔を擦り寄せると、ルルは唇を噛み締めて、ラッドの顔に自分の顔を押し付けて泣いた。
声を上げること泣く、息を殺すように。