幻獣サーカスの調教師
「それでは、当サーカス最後の見世物!エルフの少年リュートの剣舞です!」

エルフ達の演奏と共に、エルフの少年―リュートは自分の身長より少し短い剣を持って、舞台へと上がる。

ルルはラッドに寄り添いながら、何となくリュートを眺めていた。

リュートは口の端をそっと上げ、大人っぽい笑みを浮かべると、剣を高く掲げる。

そして、音楽と共に彼は舞った。

戦っているように剣を振りかざしたり、祈るように手を添えたり、高く飛び上がって宙返りをして、くるっとターンをする。

その姿は、まるで自由な鳥や風を思わせる。

リュートの舞いは「龍舞」と呼ばれる、異国の舞を元に、この国向きにアレンジされたやつだった。

リュートは笑ったり、寂しげな表情を浮かべたり、どこか遠くを見るように目を細めたり。

表情や仕草、体全てで、心を表現していた。

(……凄い)

先程までの虚ろな心が、穴の空いた心が埋まっていく。

彼のことは嫌いだったが、彼の舞いは好きになれそうな気がした。

そして、何故かルルの胸に、ポツリと何かが落ちた。

彼の剣舞は素晴らしいのに、ルルはリュートが泣いているように見える。

さっきの自分と同じ、偽りの仮面を付けて、泣き笑いのピエロのように。

別の自分を演じている。

(きっと……君も、私と同じ)

ルルと同じように、顔に笑みを張り付けながら、心の中で悲鳴を上げているのだろうか?

観客達の歓声と拍手を浴び、見たことのない満面の笑みで手を振っているリュートが、とても孤独に見えたのは、ルルの思い込みかもしれない。

だが、ルルはリュートの気持ちが、何となく分かる気がした。

いつも冷めた目をしているリュートに苦手意識を持ちながらも、リュートのことが気になっていた。

彼は何を失い、何を思いながらここで生きているのだろうか?

「……ラッド。私、団長さんのお願いを、やっぱり変えようと思うの」

ルルはラッドの鼻を撫でながら、目を伏せた。

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