幻獣サーカスの調教師
無事にショーは終わりを迎え、ルルは団長と向かい合っている。

「最初に団長は言いましたよね?ラッドをショーに出せるようになったら、何でも一つ願いを叶えてくれると」

「ああ。何だ?家族の元にでも帰りたいと言うつもりか?」

「……いえ。多分お父さんとお母さんは、私が戻ることを嫌がると思いますから。……むしろ逆です」

ルルは団長を見上げながら、両手を前に組んで頭を下げた。

「これからも……ここに置いてください。そして、ラッド以外の幻獣達の面倒も、私のやり方で見させてください。私はラッドと心を通わせることが出来ました。ならば、他の幻獣達とも同じように接することが出来る自信があります」

今までエルフが見ていた幻獣達の中には、助かるかどうかも怪しいほど弱っている幻獣もいる。

だから、ルルはその幻獣も含め、エルフがやってきたことをすべて引き受けると言ったのだ。

「ふんっ。お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?もし、幻獣をお前の不注意で死なすようなことがあれば、自分がどうなるのか本当に理解しているのか?」

大事な商品を、使えなくされては困ると、団長は眉間にシワを寄せる。

「分かってます。私は身の程知らずのことを、団長さんにお願いしています。団長さんの従えているエルフよりも幻獣達を従えてみせると言ったんです。そして、団長さんが集めた幻獣達の命を、私が握ることになります」

それは、殺されても文句を言えないほど、愚かな提案だろう。

つまり、命をかけなければいけないのだ。

だが、ルルはどうしても団長のやり方に納得がいかなかった。

恐怖を与えることで支配することは、嫌で堪らなかった。

「ここの幻獣全ての世話をすると言うことが、どれ程大変なことか分かるか?一日の中で簡単にこなせるものではないぞ」

「分かってます。ですので、試しに一ヶ月だけチャンスをください。もしも一ヶ月経つ前に、私に不備があったのならば、この腕輪のスイッチを押してください」

「ほー。命をかけるのか?軽い気持ちで言っているなら止めておけ」

どこか試すようにこちらを見下ろす団長を、ルルは意志の強い瞳で見返す。

正直、団長はルルの願いを叶える気など最初から無かった。

帰りたいなどと言おうものならば、躊躇いなくルルを殺すつもりだった。

だが、予想とは違うことを言われ、少しだけルルを見直した。

使い道がまだあるのならば、生かしておいてやっても良いだろう。

それに、正直指示を出したり、エルフや幻獣両方の管理は面倒で仕方ない。

楽をするのは好きだ。だから、試しに使ってやろうと言う気になった。

それは、本当に団長の単なる気まぐれだった。

その気まぐれのせいで、ルルは将来団長にとって最も邪魔な存在になることも知らずに。
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