幻獣サーカスの調教師
一ヶ月後。

長いようで短い期間で、ルルはちゃんと幻獣達の面倒を見た。

そして、約束通りそれ以降も幻獣達の世話をしている。

今日は、初めて幻獣達とラッドを一緒に行動させる日だった。

幻獣達は首輪を外され、ルルが与える餌を良く食べる内に、少しずつ目に光が戻っていき、完全ではないが、皆元気になっていった。

妖精達も、元々が悪戯好きな性格のせいか、ルルを困らせることもあったが、それでもルルを信頼し、ルルも信じた。

幻獣と人が、同じように生きられるのだと。

「さ、怖がらなくても大丈夫だから、皆で遊ぼう?」

先に幻獣達を会場へと集め、その後ラッドを連れてくると、他の幻獣達は怯えたように身を縮こませる。

ラッドの方は、何故怯えられているのか分からないのか、幻獣達の方へと歩み寄った。

「大丈夫だよ皆。ラッドは皆を傷付けたりしないよ?」

ルルはラッドの頬を撫でて、安心だと伝えるが、やはりラッドに近寄ろうとする幻獣はいない。

どうしようとルルが困り果てると、不意に幻獣達を掻き分けるようにして、リュートが前に進み出た。

「……リュート」

「大丈夫だ」

リュートはルルを見ず、穏やかな口調で言いながら、ラッドへと手を伸ばした。

「俺はお前を否定しない」

それは、ルルが見たことのないほどの、優しい微笑みだった。

ラッドは鼻を小さく動かし、リュートの手を嗅ぐと、試しにと舌を出して舐めた。

ライオンと同じく、ラッドの舌はヤスリのようにザラザラしてるので、舐められたら痛いでは済まないのだが。

リュートは平気なのか、大人しく指の先を舐められている。

自分は味方だと証明するように。

そして、ラッドはルルにするように、顔を寄せてリュートに頬擦りをした。

その様子に、他の幻獣達も安心したのか、少しずつだが、皆ラッドの側へと寄っていく。

すると、ラッドは他の幻獣達にも、同じように頬擦りをしたり、鼻を擦り寄せたりしていた。

(これが、彼ら幻獣達だけが住む世界の姿)

何となくだが、ルルはそんな風に思った。

もしも、幻獣だけが住む世界があるのなら、そこに住む幻獣達は、きっと今目の前の彼らのように生きているのだろう。

(……見世物でも商品でもない。あるがままの姿)

ルルは一つだけ夢が出来た。

いつか、幻獣の楽園を作りたいと。

勿論、団長は大事な商品を手離さないだろうし、楽園など夢物語だ。

だが、叶わない夢と知りながらも、ルルは思い描かずにはいられない。

その夢を叶えるために頑張ろうと思えば、ルルは毎日を生きていくことが出来るのだ。

(そして、その楽園で私も皆と暮らしたい)

幻獣使いと言う言葉が、ルルは嫌いだ。

彼らを力で従えることも、自分の思い通りに動かすのも嫌だ。

恐怖で縛らずとも、こちらが心を砕いて、寄り添って、愛情を与えれば、きっと彼らも同じように思ってくれる。

相手を信じない者が、相手に信じてもらえる訳がないのだから。

ルルはどんな時でも、幻獣達を信じようと思った。
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