幻獣サーカスの調教師
七年後と淡い気持ち
あれから、幾つもの朝と夜を繰り返した。

子供だった少女は、今年で十七才になり、幼獣だったマンティコアの子供は、成獣へと成長した。

そして、今日も少女は偽りの仮面を張り付けて、ショーを彩る。

アコーディオンを奏でながら、少女はマンティコアの背に乗り、観客の上を飛び回る。

そして、金と銀の紙吹雪を舞い散らせ、人々の歓声を浴びながら、笑顔で手を振る。

そして、最後にお辞儀をして舞台の隅へと引っ込んだ。

(……何年たっても、楽しくないな)

幻獣達とただ一緒に遊んでいる時は楽しいが、見世物として舞台に立つと、心の中にある扉に、自然と鍵をかけてしまう。

乾いた心で、偽りの仮面を付け、演義を披露する偽物の自分。

今では、そんな自分に慣れてしまった。

リュートも少年から青年に成長し、容姿に恵まれているせいか、最近は女性の観客の受けが良い。

リュートの剣舞が終わると、また耳に痛いほどの拍手が聞こえ、ショーは幕を閉じた。

「……ゾウリムシ」

「……何よ。ガングロ男」

客が帰ると、リュートはルルへと歩み寄る。最近は微生物で例えるのが流行りらしい。

ルルは不機嫌な顔でリュートを振り返った。

「団長が呼んでる」

「?何の用かしら?」

「……新入りのことだろ」

リュートの言葉に、ルルは納得したように「ああ」と頷いた。

「そう言えば、新しい団員が入るって言ってたわね。私と同じ人間の……確か男性だわ」

ルル以来の人間の男性は、ピエロを務めるのだと団長から聞いていたとぼんやりだが思い出す。

後輩と言うことになるので、ルルは少しだけ楽しみだった。

「信用はしない方が良いと思うけどな。元々は貴族の息子らしいし」

「……貴族の?」

リュートの言葉に、ルルは目を伏せてから、すぐに団長の元へと向かう。


向かいながら考えていた。

(どうして、貴族の人を使うの?)

ルルはここ数年で、様々な知識を蓄えた。

殆どが噂話だが、このサーカスは貴族の娯楽のために作られたことと、幻獣を商品にすることはいけないということを知った。

だからと言って、どうにかなる訳ではないが。

幻獣を捕まえてきたのも、元々は貴族の人間で、扱いきることが出来ないから、団長の元へと売られた子が多かった。

そんな貴族の人間が、何故ここに来るのだろうか?

(考えたって仕方ないわ)

自分は自分の役目をこなせば良い。ルルはそう言い聞かせるように目を閉じてから、息を吐いた。

そして、目の前にある扉を見上げると、二、三回ノックをして返事を待った。

「誰だ?」

「ルルです」

「……入れ」

少し耳障りな扉を開け、ルルは中へと入った。
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