幻獣サーカスの調教師
『……』

「この子が、私の相棒。ラッドよ!」

ルルはラッドの鼻を擦りながら、ノエンを見た。

「なるほど……これが、マンティコア」

どこか呟くように言うと、ノエンは一歩足を踏み出す。

すると、ラッドは威嚇をするように唸りだした。

鼻の上に皺が寄り、牙を剥き出しにしている。

「ラッド?……新しい人が来たから、びっくりしたのかな?……大丈夫よ!この人は悪い人じゃないから」

ルルはラッドを安心させるように微笑むと、ラッドは唸ることを止めた。

「ありがとう」

「……この幻獣は、ルルさんのことを、とても信頼しているんですね」

ノエンは実に不思議だと言うように呟く。

「ラッドと私は、小さい頃から一緒にいるから、私のことを母親代わりと思っているのかも。それに、幻獣達は普通の獣達よりも遥かに賢い。だから、私の言葉に耳を傾けてくれたんだと思うわ」

「貴女は、やはり素晴らしい人ですね」

ノエンに褒められ、ルルは頬を掻く。

また顔に熱が集まり、胸の奥が落ち着かなくなった。

(……この気持ちは何だろう?)

鼓動の音が、耳にも聞こえてくる。

「ルルさん、良かったら私に、幻獣達のことを、色々教えて下さい。流石に幻獣使いにはなれませんが、貴女のお手伝いがしたいんです。貴女は一人で幻獣達の世話していると聞いたので」

気遣うようなノエンの言葉に、ルルは笑って首を振った。

「その気持ちは嬉しいですけど、幻獣達の面倒を見るのは、私が団長さんとした約束ですから大丈夫です!」

「あ、そう言えばそうでしたね。……すみません。余計な気遣いを―」

「違うの!ノエンさんの気遣いは、本当に嬉しいと思ったのよ。でも、私は私の役割をちゃんとこなさなきゃいけないと思ったの」

ノエンのどこか落ち込んだような姿に、ルルは慌てて言葉を足すが、やはりノエンは肩を落としたままだ。

「そ、そうだ!幻獣達のことなら教えてあげられるから、私が遊んであげられない時は、ショーの練習の合間にでも一緒に遊んであげてくれないかしら?」

「……はい。よろしくお願いします」

ホッとしたように胸を撫で下ろしたノエンに、ルルも安心した。

ノエンの気遣いの心は嬉しかったが、それよりも自分が役ただずと判断されてしまう恐怖が勝った。

ルルはこんな所で、爆弾に吹っ飛ばされて死にたくなどないのだ。
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