幻獣サーカスの調教師
「はっ!」

放り投げられたお手玉を、玉に乗りながら器用に回すノエンの姿に、ルルは昔見たサーカスを思い出す。

白塗りの顔に、髪は帽子の中へきっちり詰め込まれ、雫と月の模様を、左右の頬に描かれた姿は、完全に別人と言えるだろう。

だが、ルルはそんなノエンの姿にさえ、心が暖かくなるような、そわそわとした気持ちになる。

けれども、それがとても嬉しいことに気付いてから、ルルは幻獣達だけでなく、ノエンと一緒にいられる時間に幸せを感じていた。

「そう言えば、ノエンさんは元々貴族の人なんでしょう?どうしてサーカスに来たの?」

ジャグリングをしているノエンに、ルルは気になっていたことを聞いてみる。

すると、ノエンは困ったように笑う。

「お恥ずかしい話なんですが、私は根っからの貴族の人間ではないんです」

「え?」

「養子というやつですね。私は貴族の家に引き取られましたが、なんと言うか、養父や養母の理想の子供では無かったらしく、こうやって売られてしまったんです」

眉を下げながら、頬を掻くノエンに、ルルも目を伏せた。

彼も自分と同じなのだと。

「ルルさんは、どうしてここに?」

「……私も、父と母に売られてしまったの」

ルルはラッドの側に座り込むと、力なく笑う。

「二人にとって、私は邪魔たったから」

「……すみません。余計なことを聞いてしまいましたね」

ルルの話に、ノエンは悲しそうに眉を下げたが、ルルは首を振った。

「ううん、話したのは私の意思よ。ノエンさんが気にすること無いわ」

「私達は、似た者同士なんですね……ルルさん」

ノエンはルルへと手を差し出す。

「?」

ノエンの意図が分からず困惑すると、彼は構わずルルの手を取り、立ち上がらせた。

「困ったことがあったら、必ず相談してください。役に立つか分かりませんが、私は貴女の味方でいると約束します」

ノエンの言葉に、暫く口を開けなかった。優しい彼の言葉に、胸が一杯になり、どう返せば良いのかと悩んだ。

「あり……がとう」

泣きそうになった顔を見られたくなくて、ルルは下を向きながらお礼を言った。

『……』

ラッドも負けじとルルの背中に鼻を擦り付ける。

「ふふっ。ありがとう、ラッド」

ラッドにすがり付くと、太陽のような匂いがした。

恐ろしい見掛けからは想像出来ないほど、ラッドの体温は優しい暖かさをくれる。

(私……ラッドも好きだけど、ノエンさんのことも……好きだわ)

ラッドと同じくらいに、ルルはノエンが好きだと気付いた。

その事が、本当に嬉しかった。
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