幻獣サーカスの調教師
「お疲れ様二人とも!」

「ありがとうございます。ルルさん」

ルルがタオルを渡すと、ノエンはお礼を言って受け取り、リュートもそっぽを向いたままタオルを受け取る。

「それにしても、さっきリュートがノエンさんに剣を振り下ろしたから、私びっくりしちゃったわ」

遠目で見ていたので、リュートの表情は分からなかったが、リュートがノエンを嫌っているのは知っているので、本当に怪我をさせる気かと心配だった。

「……」

「あれは、元々予定に組まれていたんですよ」

「そうなのね!」

勿論、リュートとノエンが一緒に舞うのなど初めてだし、そんな予定が無かったのは確かだ。

だが、あまりにも当たり前の顔で言うものだから、ルルは深く追求しなかった。

(……こいつ。何のつもりだ?)

怒りに任せてノエンを殺そうとしたことなど、本人は分かっていた筈だ。

なのに、ノエンはそれをルルに告げなかった。

それが、かえって不気味に感じる。

「あ、ちょっと私は団長さんに用があるので、これで失礼しますね。お二人もよく休んでください」

ノエンは手を胸に当てて会釈をすると、テントの奥へと消えていく。

そんなノエンの後ろ姿を、ルルはジッと見ていた。

「……あいつは、信用するな」

「?何よ急に」

ルルは訝しげな視線をリュートに送るが、リュートはルルを一切見ず、テントの奥へと消える。

残されたルルは訳が分からず、頬を膨らませた。

「何なの?変なリュート」

『ウォン』

ラッドの頬を撫でながら、ルルはため息を吐いた。

「……ま、仕方無いか……ラッド。戻りましょう?」

『ウォン!』

賛成と言うように一声鳴くと、ルルは笑ってラッドと共に、幻獣の部屋へと向かった。


「……え?ラッドを……ですか?」

「ああ。元々ラッドを売ってきた方だからな。断りようは無いだろう」

団長と向かい合ったノエンは、先程聞いた話に目を瞬かせた。

「それはそれは。……けれども、ルルさんが納得するでしょうか?」

「しないだろうな。何せ一番付き合いが長いからな。だが、拒否権など無い。……所詮、幻獣など商品にすぎんのだからな」

「……では、私はこれで失礼します」

団長に頭を下げて、ノエンは部屋を出る。

そして、小さく笑みを浮かべ、腰に差している愛刀を見下ろす。

(……どうやら、早い内に望みが叶いそうだな)

喉の奥で笑うノエンの姿に気付く者など、誰も居なかった。
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