幻獣サーカスの調教師
「……」
目が覚めると、ノエンがこちらを見下ろしていた。
地面の上で寝ていたので、首が以上に痛い。
リュートは起き上がって、首の後ろに手を当てると、こちらを見下ろしているノエンを見上げた。
何時ものへらへらとした、あの鬱陶しい笑みを浮かべることもなく、まるで人形のような無表情でこちらを見下ろしている姿に、どことなく安心した。
猫を被られるのは、鳥肌がたつほど気味が悪い。
「そういう顔をしている方が、まだマトモだな」
「……それは、褒め言葉として受け取っておきますね」
ノエンが刀を顔の前で半分だけ引き抜くと、キラリと光が反射して眩しい。
「……それで?俺を殺しにでも来たのか?」
「幻獣はいなくなるべきだとは思いますが、私が殺したいのは貴方ではありませんから」
「……あの貴族の男は死んだ筈だが?」
リュートの返しに、ノエンはクスッと小さく笑う。
「察しが良いんですね。貴方の考えている通り、私はあの男を憎んでましたよ。でも、復讐の相手は彼だけではありません。……あの男は切っ掛けでしかありませんから」
カチャっと音をたて、刀を鞘に収めると、ノエンは側にある椅子へと腰を下ろす。
「私はここに来る前、幻獣達のことを調べていました。勿論、貴方のこともね」
「……何が言いたい」
「貴方は幻獣科学者の実験台として捕らえられ、そこでさまざまな苦痛を受けてきたでしょう。だから、人間のことをとても恨んでいます」
ノエンはまた口元に笑みを張り付け、言葉を紡ぐ。
「種類は違えど、私も貴方と同じ気持ちなんです」
「幻獣を憎んでるってところか」
「ええ。特に、獰猛なマンティコアは、殺したいほど憎い」
「!……………そうか。お前は、そのためにあいつに近付いたのか」
ノエンの真意に気付き、リュートは立ち上がる。
自分よりも背の高いノエンを、睨み付けると、ノエンの方も、リュートを見返した。
「あいつが幻獣使いだから、利用するつもりで……」
「……そうです。彼女は私が殺したくて仕方ないマンティコアの世話をしていましたから。利用しようと思っています。……ですが」
ノエンは少しだけ迷った。
人間であり、少女である彼女を巻き込むことは、けして正しいことではないだろう。
そして、彼女はとても素直だ。正直、可愛らしいと思うときもあった。
けれども、復讐のためだけに生きてきた自分は、今更後戻りなど許されない。
「それでは私は失礼します。……ああ。今の話をルルさんにしても無駄ですよ」
ノエンを好いている限り、リュートの言葉など素直に受け入れないだろう。
「……だろうな」
最後ににこりと笑みを浮かべて、ノエンは背を向けた。
目が覚めると、ノエンがこちらを見下ろしていた。
地面の上で寝ていたので、首が以上に痛い。
リュートは起き上がって、首の後ろに手を当てると、こちらを見下ろしているノエンを見上げた。
何時ものへらへらとした、あの鬱陶しい笑みを浮かべることもなく、まるで人形のような無表情でこちらを見下ろしている姿に、どことなく安心した。
猫を被られるのは、鳥肌がたつほど気味が悪い。
「そういう顔をしている方が、まだマトモだな」
「……それは、褒め言葉として受け取っておきますね」
ノエンが刀を顔の前で半分だけ引き抜くと、キラリと光が反射して眩しい。
「……それで?俺を殺しにでも来たのか?」
「幻獣はいなくなるべきだとは思いますが、私が殺したいのは貴方ではありませんから」
「……あの貴族の男は死んだ筈だが?」
リュートの返しに、ノエンはクスッと小さく笑う。
「察しが良いんですね。貴方の考えている通り、私はあの男を憎んでましたよ。でも、復讐の相手は彼だけではありません。……あの男は切っ掛けでしかありませんから」
カチャっと音をたて、刀を鞘に収めると、ノエンは側にある椅子へと腰を下ろす。
「私はここに来る前、幻獣達のことを調べていました。勿論、貴方のこともね」
「……何が言いたい」
「貴方は幻獣科学者の実験台として捕らえられ、そこでさまざまな苦痛を受けてきたでしょう。だから、人間のことをとても恨んでいます」
ノエンはまた口元に笑みを張り付け、言葉を紡ぐ。
「種類は違えど、私も貴方と同じ気持ちなんです」
「幻獣を憎んでるってところか」
「ええ。特に、獰猛なマンティコアは、殺したいほど憎い」
「!……………そうか。お前は、そのためにあいつに近付いたのか」
ノエンの真意に気付き、リュートは立ち上がる。
自分よりも背の高いノエンを、睨み付けると、ノエンの方も、リュートを見返した。
「あいつが幻獣使いだから、利用するつもりで……」
「……そうです。彼女は私が殺したくて仕方ないマンティコアの世話をしていましたから。利用しようと思っています。……ですが」
ノエンは少しだけ迷った。
人間であり、少女である彼女を巻き込むことは、けして正しいことではないだろう。
そして、彼女はとても素直だ。正直、可愛らしいと思うときもあった。
けれども、復讐のためだけに生きてきた自分は、今更後戻りなど許されない。
「それでは私は失礼します。……ああ。今の話をルルさんにしても無駄ですよ」
ノエンを好いている限り、リュートの言葉など素直に受け入れないだろう。
「……だろうな」
最後ににこりと笑みを浮かべて、ノエンは背を向けた。