幻獣サーカスの調教師
「リュート!」

「どうした?」

両耳に可愛らしい耳当てを着けた、顔にそばかすの散った少女は、自分を守る守護者の膝の上に座る。

見た目だけなら、十二才くらいの幼い少女だ。

だが、彼女はもう幾数年の時をここで過ごしている。

「もうすぐ生まれるよって、大樹が言ってるわ」

「ああ。新しい仲間だな」

「ラッドと同じ子が良いなー!ね?ラッド!」

リュートの隣にいたラッドへと飛び付き、頬擦りをして大樹を見上げる。

「ねぇリュート!」

「ん?」

「大好きよ!ルルはリュートが大好きなの!」

「……俺もだ」

再び膝の上に来たルルの頭を撫でながら、リュートは幸せそうに微笑む。

(人間だったお前は、あいつを愛した。そして、人間ではなくなったお前は、俺を好きだと言う)

これは、自分が―否幻獣達が望んだことだ。

エルフとしての豊富な知識と魔力、実験に使われたことの副作用なのか、リュートは本来なら不可能なことを可能にしてしまった。

ルルの死体に魔法をかけ、集められるだけ集めた材料を使い、ルルの体を苗床の代わりにして、大きな大樹を作り上げた。

そして、数年かけて大樹は育ち、ようやくルルが生まれた。

彼女には人間だった頃の記憶はない。

だから、最初からルルはリュートに好意的だった。

リュートもルルには特別優しく接していた。

好かれるように努力して、そして今の幸せがあるのだ。

(……けれど、時々は思う。俺はどちらのお前が好きなんだろうかってな)

人間だったルルと、大樹の化身となったルル。

どちらを、愛しているのだろう?

(いや、答えなんかいらない。お前がここにいれば、それで良い)

どちらのルルも、自分は愛せる。愛したいのだから。

「さ、そろそろ妖精のお茶会に行く時間じゃないのか?」

「うん。喉乾いちゃった!」

リュートの手を握り、ラッドと共に歩き出す少女の姿は、本当に幸せそうだった。


「……変わった花ですね」

ひらりとどこからか舞い降りた、ピンク色の可愛らしい花びらを手に乗せ、短い黒い髪の少年は、どこか懐かしい気持ちを感じながら、空を見上げた。

「……ルル」

呟いてから、また手の平へと視線を戻す。

「って……誰でしょうね」

少年の疑問に答えることなく、再び吹いた風と共に、花びらは遠くへと舞い上がっていった。
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