幻獣サーカスの調教師
少年と別れた後、ルルはラッドに餌を食べさせ、音楽を聞かせて寝かし付け、テントの外に出る。

テントのすぐ近くまでなら、出ても良いらしい。

だが、逃げ出すことは不可能だ。

(……これ、本当に爆発するのかな?)

ルルはここに来て暫くしてから、両手に銀色の腕輪を付けられた。

幻獣達とはまた違う、人間専用の腕輪で、小型の爆弾が仕掛けてあるらしい。

つまり、もしも逃げ出そうとしたり、必要の無い存在と判断されたら、団長は容赦なく起爆スイッチを押すだろう。

ため息を吐くと、ルルは地面へと座り込む。テントの中と違って、外は大分涼しいというのに、空気が美味しく感じない。

「こんな所でため息吐いて、幸せが逃げたら大変だよ?」

「……?お兄さん誰?」

一体何時からいたのか、目の前には銀色の髪と紫色の瞳の青年が立っていた。

「あはは。お兄さんか……うん、やっぱり嬉しいよね」

ルルの質問には答えず、青年はニコニコと笑っていた。

「お兄さんは、どこから来たの?」

「ここよりも遥か遠くの国だよ」

今度は質問の内容に答えてくれたらしく、ルルはホッとした。

「お兄さんのお名前は?私はルルって言うの」

「名前は……秘密。ルルね、良い名前だね」

青年は笑って、ルルの頭を撫でた。

「どうして秘密なの?」

首を傾げても、青年はやはり答えをくれない。

(この人、何か不思議な感じがする)

上手くは言えないが、温かいような優しいような、そんな気持ちになる。

「……さて、そろそろ行かなきゃね。本当は話しかけるつもりは無かったんだけど、君は似てたから」

「?誰に?」

「前の僕の愛弟子だった子に。……でも、君はあの子よりも危うい」

そう言いながら、青年は悲しそうに微笑む。

「彼女が望んだ世界は、君みたいな子には生きにくい世界になってしまった」

「?」

「……一つだけ僕が君に言えるのは、君の運命は希望と絶望の両方が混ざっている。これからの君の行動次第だけどね」

青年の言葉の意味が分からず、ルルはただ困惑するしかない。

青年はまたニコッと笑って、背を向けて去った。

(……誰だったんだろう?)

ルルはただ呆然と、青年がいなくなった方向を眺めていたのだった。

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