リストカット
二人供、目を見開いて俯いた。特に清香の様子がおかしかった。
「だから、篠原先生は誰だと言っている」
「篠原裕也(しのはらゆうや)先生……」
清香がボソリとその名を呟いた。美那と翔太は反応して清香の方を見る。
「社会の先生……今は、隣の中学校に居る……」
「隣の中学校って、俺が以前に居た北山中学校?」
「はい……」
「他に情報は……?」
清香は黙ってしまった。それはさすがに言えなかった。栞奈の好きな人を美那にバラしてほしくなかったから。
「栞奈は……その先生が居ると幸せそうにしていた……」
次は美那が呟いた。翔太は驚いた。つまり、栞奈は……。それ以上は考えたくない。
「じゃあ、戻っていいよ。だいたい理解出来たから」
美那と清香は談話室から出て行った。
「ねぇ、栞奈は何であの先生を見ると幸せそうにしてたの?」
美那から突然の質問で清香は戸惑う。言ったらどうなってしまうのか、とても不安だった。
「誰にも言わないで……」
「分かった」
「栞奈は先生が――大好きだった……」
美那はあまりにも衝撃で立ち止まってしまった。
「栞奈は篠原先生を好き……?」
「うん。初恋の人だったみたい……」
「そっか……」
二人はまた歩き出した。後ろで翔太は座り込んでしまった。
「栞奈の初恋が教師……。だから俺には希望はないのか?俺の恋は一生叶わなそうだな……」
また翔太は頬を濡らした。
「昼休みに行ってきてやる。篠原先生のところへ」
そして、翔太は歩き出した。