リストカット



そして、昼休み。二人はそわそわしながら作戦の通りにそれぞれの場所に向かった。


陽太は集会室に入り、練習をしている陽菜に声を掛ける。


「卓球に興味があって、ラケットを見せてほしい」


「えっ……別にいいけど」


陽菜は嫌そうに自分のラケットを陽太に渡した。陽太はニヤッと笑い、ラケットを外に投げ捨てた。


「えっ!?倉上!?」


「自分たちの行いを反省した方がいいぜ。窓の外を見ろ」


そう言われて陽菜と彩未は外を見ると、清香が飛んでもない顔で陽菜のラケットを踏みつけていた。


「あっ、私のラケットが!やめてよ!清香ちゃん!」


その声に反省した清香は、排水溝のところに陽菜のラケットを捨てた。陽太はそんな清香を恐ろしいと思っていた。


「そんな……」


「反省しろよ。栞奈にやったこと……」


「えっ?」


今この状況になる理由が栞奈のリストカットだと知り、陽菜たちは驚いた。


「そんなつまんないことで私たちをいじめたの?」


「つまらなくない。お前に罰を与えてやった。復讐だよ」


衝撃を受けた陽菜はあることが疑問に浮かんだ。どうして陽太は栞奈のために復讐をしているのだろうか、と。


「俺は栞奈を失った辛そうな清香に頼まれてやってる。まぁ、清香の報復はこれからもっと恐ろしさを増すだろうな」


話を聞いているうちに陽菜と彩未は血の気が抜けたくらいの白い顔をしていた。


「陽菜ちゃん、彩未ちゃん!」


外から帰ってきた清香は叫ぶようにその名を呼ぶ。二人は清香のオーラに反応し、後ろに少し下がった。


「ちゃんと反応してくれますよね?卓球にしか目がない馬鹿女たち」


一年生の頃の清香がじゃ考えられないくらいの言葉で、陽菜は目を見開いた。


「反省してくれますわよね?」


「……分かったからやめて!」


「それでラケットを弁償しろとか言ったら、倉上にぶっ飛ばしてもらうから」


「分かった……分かったから……!」


「あっそ」


清香は陽太にニヤリと笑って、行きましょうか、と言った。陽太は頷いた。


「皆さん、ご機嫌よう。彩未、覚悟してね?」


その言葉を聞いた彩未はその場に崩れ落ちた。そんな様を見て、清香は幸せそうに高笑いをした。


「行きましょう、倉上。次の作戦ですわ」


「ああ……」


二人は騒然とした集会室を堂々と出て行った。二人はやりきった顔をしていた。


翔太はそんな二人を遠くから不思議そうに眺めていた。


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