幻惑な夜
女はやっぱり俺を見て笑ったのだろうか?
後ろのNBAがそれを見て笑った?

ほんの数秒で二人に笑われた俺はドアの窓を少し下げる。
生温い夜気が俺の顔に纏わりつく。

嫌な気分だ…。

NBAも後ろでドアの窓を下げた。

俺は窓を閉める。
NBAもすぐに窓を閉めた。

…コイツ。

ルームミラーでNBAの顔は見れないが、その口元は耳まで裂けているんじゃないかって言うくらいニヤついているに違いない。

俺は腹の底の方でチリチリとするイラつきを感じる。

信号が青になり走り始めると、やがて車線が一車線になり、けたたましい水道工事の現場を横に過ぎて行く。

やがて二車線に戻ると道はやたらと流れ出し、密集していた赤のテールランプが一斉に散らばっていった。

「何だったんだろうねぇ、ほんと」

「はあ、そうですね」

俺はNBAの呟きに対し、適当に相槌を入れる。


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