幻惑な夜
醤油、トンコツ…どんな味であったかは覚えていない。

覚えていないのは、それほどインパクトのある味ではなかったのかもしれないし、来た回数が一回、二回と言う少なさのせいかもしれない。

…いや違うな。

ただ単に時間が経ち過ぎて、俺の記憶からすでに抹消されただけだろう…。

「それでさ、二つ目の信号右に曲がってくれる」

NBAの頭には、もうさっきのラーメン屋はない。

…俺がタクシーの運転手になって何年だ? たしか日本がサッカーでフランスのワールドカップとやらに始めて出た時だ。

勝った負けたと日本中が熱く盛り上がっていた時、俺は江東の教習所で二種免を取るのに熱く盛り上がってた記憶がある。

フランスの次が日本で、その次がつい先月までやってたドイツ。

乗せる客が口々に、ジーコだ中田だ、ジダンだイタリアだの言って、いい加減うんざりだった。

…4年と4年と4年だから…12年か。


< 12 / 69 >

この作品をシェア

pagetop