幻惑な夜
病院の受付けの女の目は、明らかに軽蔑と嫌悪とがいりまじっている。

さっきから目の前に立っている俺の顔を、ワザとなのか一度も見ていない。

受付の女の後ろには、ピンクのナース服を来た看護婦がいる。

カルテをめくりながらも、その看護婦の意識は間違いなく俺に注がれている。

「保険効きませんから、診療代と手術代とで、10万と2400円になりますね」

受付の女はそう言いながらも、やっぱり俺の顔を見ない。

後ろの看護婦のカルテをめくる手が一瞬止まり、すぐに動き出す。

さっきから俺の背中に感じている視線は、きっと待合室の長椅子に座っている太った女に違いない。

正確に言うなら、太った妊婦だ。

3歳くらいの女の子が一緒だ。
女の子は、バイキンマンのぬいぐるみを持っている。

待合室の広さは10畳くらい。
長椅子が縦に三つ、受付の方を向いて並んでいる。

その一番前に、太った妊婦と女の子は座っていた。

待合室には、その親子だろう二人以外に誰もいない。


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