幻惑な夜
今いる病院の二階、病室のベッドで眠っている恭子のものだ。

恭子と俺はこの産婦人科に、恭子が稼いだカネをヴィトンの財布に入れ、そのカネで恭子と俺の子供を堕ろしに来た…。

受付の女は、ヴィトンに入っているこのカネも俺のものではないと察したに違いない。

「10万と…2千と…400円」

俺は受け皿にカネを載せる。

受付の女は、そのカネを手に取ると一万円札を指で弾くように数え始めた。

「…はい、確かに」

やっぱり女は俺の顔を見ずにそう言うと、

「これ鎮痛剤です。痛みがひどいようなら一錠だけ飲んで下さい。それと、明日もう一度病院の方に来て下さい、異常がなくても。それじゃこれは診察券ですから、しばらくは安静にするように、どうぞお大事に」

受付の女は、気持ち早口でそう言うと、内服薬と書かれた紙袋と診察券を俺に渡す。

いつの間にかピンクの看護婦の姿はない。


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