幻惑な夜
後ろの太った妊婦の、読んでいるのかいないのか、週刊誌をペラペラとめくる音が聞こえてくる。

振り返ると、みっちゃんは長椅子に座って俺の事をジーっと見つめている。

バイキンマンのぬいぐるみが、長椅子の下に落ちている。

その片耳はみっちゃんがいつも囓ってるせいかボロボロで、白い綿が飛び出している。




恭子が寝ている病室は二人部屋だった。

もう一つのベッドは空いている。

壁に掛かっている時計の針は3時25分を指している。

恭子がストレッチャーに乗せられ、処置室からこの病室に移された時は3時ちょい前だった。

30分くらいで麻酔は切れると、年配の、やはりピンクのナース服を着た看護婦が言っていたから、そろそろ目が覚めてもいい頃だ。

受付でカネを払ってから、恭子の寝ているベッドの横で、俺は恭子の顔を眺めている。

これだけマジマジと、恭子の寝顔を見るのは始めてのような気がする。

自分の意思とは別に、麻酔で眠らされている恭子の顔を見て、俺はホッとした。


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